日経ライブレポート「RHYE」

会場はぎりぎりまで照明が落とされ、とても暗い。僕のような老眼には座席番号が全く見えず困ってしまった。その暗い空間にアンビエント(環境音楽的)なBGMが流れ、実験的なロックバンドの開演前のような雰囲気。しかしRHYE(ライ)は決して実験的なロックバンドではなく、ポップで洗練されたメロディーを持つ親しみやすいアーティストだ。カフェで流れていると、しっくり来るようなタイプの音楽だ。

実際、演奏が始まるとシャーデーを思わせるマイケルのシルキー・ボイスを中心にした、とても官能的でエンターテインメント性の高いステージが展開され楽しかった。

演奏が始まってもステージの照明は暗い。彼らの音にふさわしいお洒落で洗練されたライティングなのだが、光量が抑制され、メンバーにスポットが当たる感じではない。最後までそれは変わらなかった。とても面白いと思った。

ライは活動を始めた当初バンドの素性を明らかにしないまま、音源とミュージックビデオのみで音楽を広めていった。ビデオに本人たちは登場せず、俳優がドラマを演じるショートムービーのようなものだった。もともと2人組のユニットだから、演奏場面を作りようもなかったという事情もあったのかもしれない。

ただ彼らがポップミュージックの持つ匿名性を大切にしてきているのは確かだ。誰が歌っているかではなく、曲の持つ力、音源の素晴らしさによって聴き手に愛されていくことを大きな目標にしているように思う。この日のライヴも大編成のバンドによって、音の緻密さと歌の官能性で圧倒するパフォーマンスを展開してくれた。
5月18日、ZEPP ダイバーシティ東京。
(2018年6月5日 日本経済新聞夕刊掲載)
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