日経ライブレポート「トム・ミッシュ」

最近、カフェやブティックでトム・ミッシュの音楽が流れる場面に出会うことが多い。おしゃれな街のBGMとして時代の空気に合っているのだろう。洋楽ファンからすると、まだマニアックなイメージがあるし、実際、彼の名前の一般的な知名度は低い。しかし彼の音楽は名前より速いスピードで世間に広がっている。それがとても面白い。

英国出身の若いミュージシャンだ。高い技術を持つギタリストであり、独特なスタイルのボーカリストでもある。ヒップホップやロック、ジャズなどを融合させた、聴きやすく洗練されたサウンドを一貫して展開している。

会場は超満員。サマーソニックの出演はあるが、単独の来日公演は初めて。お客さんの期待感は大きい。オープニングアクトとして日本人アーティストのカン・サノが登場し、熱い演奏で会場を盛り上げた。良い音楽に対して開かれた姿勢のお客さんが集まっていることが感じられた。

派手なステージではないが、セットも照明も緻密に作り込まれ、彼の音楽の世界観を反映したものになっている。まだキャリアが浅いのでファンの聴きたい曲のほとんどが歌われた。素晴らしいギターテクニックも、温かい歌声も、堪能することができた。

ライブを見て強く思ったのは、この人の最大の武器はメロディーだということだ。サウンド・デザインについて語られることの多いアーティストだが、メロディーの強さがあってこそのサウンド・デザインだと思う。街のBGMとしてのパワーを持っているのも、そのメロディーがあるからだ。テレビ出演もあったので、彼の音はもっと広がっていくのではないか。

5月27日、新木場スタジオコースト。
(2019年6月19日日本経済新聞夕刊掲載)
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