日経ライブレポート「スティング」

アンコールを含めて20曲が演奏されたが、そのうちの9曲がポリス時代のナンバーだった。しかも本編1曲目が「メッセージ・イン・ア・ボトル」、本編ラストは「エヴリ・ブレス・ユー・テイク」。アンコールも「キング・オブ・ペイン」で始まった。つまりライブのポイントとなる曲のほとんどがポリスのナンバーだった。一歩間違えると過去のヒット曲に頼った後ろ向きの構成とも思われかねない選曲にあえて挑んだのは何故か。

このツアーは最新アルバム「マイ・ソングス」がベースとなっている。スティングが自分の代表曲をセルフカバーした作品だ。彼がこのアルバムを作る一つのきっかけになったのがジュース・ワールドという若い人気のヒップホップ・アーティストが「シェイプ・オブ・マイハート」をサンプリングして大ヒットさせたことだともいわれている。当時まだ10代だったアーティストに自分の曲がサンプリングされ、それがその年を代表するような大ヒットとなったことは、スティングに自分の作ったメロディーの普遍的な力を再認識させたのではないか。

スティングは、ジュース・ワールドの曲を「原曲に忠実かつ美しい解釈」と称賛している。アルバム「マイ・ソングス」はまさにその美しい解釈を自分で実行したアルバムとなっている。原曲の形はしっかりと残しつつ、現代的なアレンジを加えた作りはスティング自身が自分の曲の素晴らしさを再確認したものと言える。

この日のライブではどの曲も、アルバムより、さらに原曲に近い形で演奏された。全く衰えを感じさせない声で歌われる数々のヒット曲は、これも現在のスティングによる美しい解釈なのだと感じさせる力強さで聞く者に届いた。

10月10日、幕張メッセ。
(2019年10月29日 日本経済新聞夕刊掲載)
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