日経 文化往来「エラ・メイ」

ロンドン出身の25歳の女性シンガー、エラ・メイは、メジャーレーベルでリリースしたアルバムはまだ1枚だけというキャリアだが、2時間近いショーを見事に盛り上げた。既にグラミー賞を獲得し、多くのヒットを放っている実力がリアルに伝わってきた。

「オルタナティブ・ソウル」とか「インディ・ソウル」などと呼ばれる新しいタイプのソウルミュージックを代表する1人。彼女自身「R&Bは死んでいない」といった発言をよくしているが、クラシックなR&Bの伝統をしっかり継承して行くことによってソウルの更新を図るのが彼女のスタイルだ。ヒップホップやジャズの影響を受けたクールな音作りが時代の空気に合い、高い支持を得ている。

しかし、この夜のライブは想像以上に熱いものになった。ビヨンセのような大物アーティストの前座などで鍛えられたパフォーマンスはとてもエネルギッシュかつ攻撃的なもので重低音の効いたリズム隊のうねるようなグルーブに彼女のパワフルな歌が乘る世界には、CDとは別の素晴らしさがあった。

彼女の言う「R&Bは死んでいない」とはこう言うことだ、と見せつけられたステージだった。これはザ・ウィークエンドカリードといった新しい世代のソウルミュージックの担い手全般にいえることかもしれない。ライブパフォーマンスが音源の再現ではなく、より自律的な表現、エンターテインメントとして成立することを彼らは目指している。それはポップミュージックの変わらぬ歴史であると同時に、とても今日的なテーマであると感じた。

11月1日、東京国際フォーラムホールA。
<2019年11月27日 日本経済新聞「文化往来」掲載)
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