日経ライブレポート「ジェイムス・ブレイク」

日本での知名度は低いが、イギリスで大変注目されているアーティストである。個人的にもとても楽しみにしていたライヴだが、期待以上のパフォーマンスだった。

今までにない革新的なサウンド・スタイルを持つアーティストとしての評価が高く、実際イギリスでも日本でも熱心な音楽ファンを中心に人気が広がっている。確かにアレンジや音の感触は実験的であったり前衛的であったりするが、彼の魅力の基本は、誰もが理解できるポップ・ミュージックのメロディーの美しさと、ヴォーカルのセクシーさだったりする。

ライヴの最初と最後にキーボードの弾き語りで1曲ずつ歌う。サウンドの衣装のない、裸の彼のありのままの形が表れる。そのポップ・ミュージックとしての王道感、メロディーの美しさ、声の艶やかさ、これこそが自分なのであるというメッセージのようであった。その後、2曲目からドラムとギターが加わり、いきなり2011年の究極のモダン・ミュージックの世界に変わる。小編成ながら、大胆なアレンジと、音響スタッフが一体となったライヴハウス自体を揺らすような重低音。まさにシーンのトップを走るイノヴェイターとしてのジェイムス・ブレイクの面目躍如といった演奏が展開された。

ポップ・ミュージックは常に普遍的であるということと、時代的であるということと、二つの大きなテーマを背負っている。そのどちらも最高の形で実現しようとしても、そこには多くの困難が生じてしまう。しかしジェイムス・ブレイクは、そのポップ・ミュージシャンとしての究極の課題を見事にクリアしてみせた。

10月12日、恵比寿リキッドルーム
(2011年10月31日 日本経済新聞夕刊掲載)
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