誤解を恐れずに言えば、「病んだ傑作」が溢れるアメリカに投下される「正しい傑作」だ。
トーキング・ヘッズの知的正しさ、デヴィッド・ボウイの感覚的正しさ、ジョン・ライドンのアイロニカルな正しさ、そうしたものを正しく継承してアップデートして補正をかけて2017年バージョンにした、正しい傑作だ。
カニエ・ウェスト、ケンドリック・ラマー、ビヨンセ、フランク・オーシャンといったアーティストが、病んだ自分語りのリアリティーから真実を描いた傑作を生み出すのとは全く違う手法で、つまり研ぎすませた批評性をサウンドと歌詞に込めて放つというあくまでもロック/ポスト・パンク的手法で2017年にこれだけインパクトと説得力のある傑作に仕上げたジェームス・マーフィーはさすがとしか言いようがない。
復活の必然性を十分に感じられるアルバムだ。
そして、ここまでの作品をなぜ彼が作(らなければならなか)ったのか、
それはトランプ当選によって変質してしまった自分たち「アメリカ」に対する危機感に他ならないと思う。