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    クリープハイプ尾崎世界観とラランド ニシダのダブルスタンダード、のこと(ROCKIN’ON JAPAN最新号『激刊!山崎』より)

    クリープハイプ尾崎世界観とラランド ニシダのダブルスタンダード、のこと(ROCKIN’ON JAPAN最新号『激刊!山崎』より)
    移動中にはだいたいポッドキャストを聞いているのですが、最近はクリープハイプの尾崎世界観とラランドのニシダの『ダブルスタンダード』という番組が面白くてずっとそればかり聞いています。
    なんか「GERA」というお笑い系のラジオアプリ?での番組らしいのですが、僕はあまりそちらは詳しくないのでSpotifyで配信されているのを普通に聞いています。
    もう25回を越えていているので第一回目からアーカイブを立て続けに聞いていったのですがあっという間に最新回に追いついてしまいました。
    でも新しいエピソードが配信されるのが2週間ごとなので、その間隔がなんか微妙でもやもやして、今は2週間待つのがダルいです。
    せめて週イチにしてほしいです。

    内容はめちゃくちゃ面白いです。
    いちおう文学やそれにまつわるテーマでお二人がカジュアルにつらつら話すということで、基本的にはミドルテンションでだらだらはしているのですが、そのだらだらが曲者で、むしろ一瞬の隙もなく研ぎ澄まし合っているのが聞いててピンピンに伝わってくるわけです。
    お二人の会話の気ままな言葉のやり取りや自然で無防備なテンポを注意深くよく聞いていると、ピンピンにセンスを立たせて張り詰め合っているのがわかるのです。
    スカスカなハズレ玉の投げ合いですら、それはもうハイレベルなアクロバットになっていて、味も絶品、滋養も豊かというものになっているわけです。

    さすがクリープ尾崎、さすがラランド・ニシダ、と言いたいところなのですが、これに関しては、それぞれの言葉の才能やトーク力もさることながら、この二人だからこそ起きている一種のマジックのような力もあるのでは?と思うのです。
    僕はニシダさんにお会いしたことはないので(上智大学外国語学部イスパニア語学科の後輩ではあります)テレビやYouTubeで見るぐらいですが、尾崎世界観とはインタビューやフェス会場で何度も話したことがあります。
    でも、そのときに感じる彼のトーク力や、これまで彼の出演番組や著作を見たり聞いたり読んだりして感じた言葉のテクニックとは違うレベルのなにかを感じるのです。

    たとえばインタビューや番組出演であれば、インタビュアーや司会者が求めるままに尾崎は創作の意図や鋭い分析や嫌味や毒を吐き出す役割を演じるわけですが、この『ダブルスタンダ―ド』ではそうではなくて、なにをどこまで吐き出せばいいかを自分で探りながらアクセルとブレーキをせわしなく踏み分けている尾崎を感じるわけです。
    それと同時にニシダも、いつものラランドならサーヤの暴走芸の流れに基本的には身を任せるというスタイルなのに、隙あらばアクセルを踏み込んだり急カーブを曲がろうとしたりするのが見受けられるのです。
    つまり、お二人は和やかな普通のカジュアルトークのふりをして、わりとぎりぎりのチキンレースをやっているわけです。

    ニシダさんとの歳の差が10歳、というのも絶妙なのだと思います。だいたい同じような時代やカルチャーを経験してきたけれどもジェネレーションギャップのせいで捉え方がちょっと違う、みたいなそのすれ違い感を逃さずにすかさずどちらかがアクセルを踏み込んだりする瞬間はたまらなくスリリングです。

    解説しだすと止まらなくなるのでこのへんでやめます。

    この番組では何度も尾崎が「文学の中でも、わかっていることを書いて伝えるジャンルよりわからないことを伝えようとする純文学というジャンルが好きだ」と何度も言っていて、それは、「わかっている気持ちよさを与えてくれるポップスより、わからないことと格闘するロックが好きだ」ということに僕には聞こえて、最近のクリープハイプが幅広い表現にトライしていてもやっぱりロックやバンドサウンドを軸にしていることと重なっているんじゃないかとか思ったりもしています。
    純文学も、ロックも、もはや死語だなんて言われていた時もありましたが、わからないことをわからないと曝け出しながらそれが何なのかをみんなに問うという行為が死ぬことなんてあるものかと、思わせてくれる番組でもあるのです、僕にとっては。


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