最強の音楽(ロッキング・オン最新号/編集後記より)

ボブ・マーリーの表紙はロッキング・オンとしては初で、レゲエのアーティストがロッキング・オンの表紙になること自体が初めてとなる。

僕としてはかなりの決意と期待を持って臨んだ巻頭特集で、編集作業を始める前から「ついにこの時が来た」という並々ならぬ感慨と高揚感が心の中にあった。もちろん伝記映画『ボブ・マーリーONE LOVE』の公開を受けてということもあるが、個人的にはロッキング・オンの巻頭特集にボブ・マーリーを取り上げることはそれこそ編集部に入った20代の頃からの念願だった。

ただ、編集作業に入って感じたことは、僕が作ろうとしていたボブ・マーリー特集と、編集部スタッフやライター諸氏が実際に手を動かして作り出されてくる記事の主旨が少なからず違っている、ということだった。
人物像や史実が主に語られ、彼が世界へ広げたレゲエミュージックへの考察が淡白であるように感じたのだ。そもそも今回の映画への一般の人達の反響や、そこで語られる感想もそうだったので、僕は戸惑った。でも、それでいいんだと思い直した。今みんなが思うボブ・マーリー、今みんながあの映画を観て感じたボブ・マーリー──そしてそれをさらに深めるための、ライター諸氏それぞれの歴史観の中でのボブ・マーリーが重なってあの偉大な像を描くことができればそれでいいのだと思いながら作業を貫徹した。そして、文句なしの特集に仕上がったと思う。

僕は中学生の時にロッキング・オンを通してボブ・マーリーと出会った。白黒2ページの記事には大きく「最強の音楽」というタイトルが打たれていた。そしてボブ・マーリーのアルバムを買って聴いた僕はそこでまさしく「最強の音楽」に出会った。そこから他にもレゲエのアーティストを聴いて、そこにも最強の音楽があった。その時、僕はレゲエを聴くのを止めることに決めた。なぜなら、最強だったから。最強の音楽を聴いてしまったら、もうロックやパンクを聴けなくなってしまうから。中学生の僕は、もっとロックやパンクを聴きたかった。だからレゲエは人生のもっと後半に取っとくことにした。でも、自分の中で「レゲエは最強」という考えは変わらなかった。ゆっくりと歩くような、確信に満ちたリズム。削ぎ落とされ、研ぎ澄まされたギターや鍵盤。力強く、そして慈愛にあふれたヴォーカルとハーモニー。あらゆるポップミュージックの享楽性と刹那性を越えた最終地点へと連れて行く神秘的な力がレゲエにはある。

ボブ・マーリーの偉大さは、レゲエの偉大さである。偉大なのはその音楽なのだ。そのことをここで念押ししておきたかった。(山崎洋一郎)


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https://rockinon.com/blog/yamazaki/209751
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