スマッシング・パンプキンズを2000年に解散させた後、ビリー・コーガンはパンプキンズのオリジナルメンバーであるジミー・チェンバレンとともにズワンを結成し、『メリー・スター・オブ・ザ・シー』というアルバムを制作している。セールスこそ振るわなかったものの、佳曲揃いの優れたロックアルバムは、今後のビリーの活動を期待させるに十分なものだった。しかしズワンはそれきりで活動を休止し、2006年にはビリーとジミーとでパンプキンズを再始動させる。ズワンではなく、やはりスマッシング・パンプキンズとしての活動を求めたのだ。
その後もジミーの脱退や、ビリーの「新たなアルバムのリリースはしない」との発言もあったりで(その発言に反して、オリジナル・アルバムはその後も制作されたが)、ポジティブな理由でのオリジナルメンバーの再集結を望むのは絶望的かと思えた。しかし、スマッシング・パンプキンズは続いていった。2012年の『オセアニア〜海洋のかなた』はビリーの会心作だったし、2014年の『モニュメンツ・トゥ・アン・エレジー』では、ジェフ・シュローダーとビリーが新たな盟友関係にあることを思わせるサウンドを聴かせてくれたし、そうして続いていくスマパンも悪くないと思っていた。
それが今、オリジナルメンバー3人が集結して新作をリリースするに至るとは。解散後も断続的に活動を共にしてきたジミーはともかく、ジェームス・イハの18年ぶりの復帰作となる新作『シャイニー・アンド・オー・ソー・ブライト VOL.1 /LP : ノー・パスト、ノー・フューチャー、ノー・サン』は、どうしても「再集結」的な意味合いが先行するものだけれど、2006年の再始動以降を支えたジェフをそのままメンバーとして残したことも実は大きいようにも思う。
アルバムの全容を聴いて感じたのは、「再集結」というよりも「新生パンプキンズ」と捉えたほうがしっくりくるということだ。ビリーが決して過去の評価を取り戻すためだけに、今回の再集結を画策したわけではないと思わせるに十分な「新作」であり、解散前よりもむしろバンド感が増している。この感覚が嬉しい。
ビリー、イハ、ジェフと、ギターが3人同時に在籍することになったわけだが、その編成からイメージさせられるアグレッシブさよりも、バンドとしてのまとまり感を嬉しく感じる作品になるとは自分としても意外だった。先に公開されていた“Solara”のように、メタリックでヘヴィなビリーのギターサウンドは健在ながら、そこに必要以上の緊迫感はない。歪んだギターリフの隙間に、不思議に心が軽くなる爽やかさというか、余裕を感じさせる。やはりイハの存在感なのか、バンドの空気感の変化なのか。例えば“Marchin’on”の、ゴリゴリとドライブする歪み全開のスマパンサウンドにしても、音の厚みは存分に感じさせながらどこか抜け感があって、再集結うんぬん抜きにしてとても良いアルバム、良きサウンドに仕上がっていると思う。
かつてのビリーなら、そうした円熟を嫌ったかもしれない。抜き差しならない緊迫感と、それを際立たせる凪のようなポップネス、その相反を描くことでリスナーの耳を釘付けにする、それがパンプキンズであり、ビリー・コーガンが求める音像だったようにも思う。しかし今回は「相反」ではなく「融合」とも言うべき肌触りで鳴っている。リック・ルービンのプロデュースによるところも大きいだろうが、イハの長らくの「不在」が、結果として「パンプキンズとは何なのか」をビリーに考えさせることになったのだと思う。この良いバンド感に至るまで、なんと長い回り道だったことか。今はともかく、これがすぐに壊れてしまうものでないことを願うばかり。(杉浦美恵)
『シャイニー・アンド・オー・ソー・ブライト VOL.1 /LP : ノー・パスト、ノー・フューチャー、ノー・サン』の詳細は以下の記事より。
スマッシング・パンプキンズのインタビュー記事は現在発売中の『ロッキング・オン』12月号に掲載中です。
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