楽曲、演奏、演出、ファッション、そのすべてが完璧で非の打ち所がない。バンドとしては5年ぶりの来日となり、「サマーソニック 2019」に出演、さらに東京で一夜限りの単独公演を行ったブリング・ミー・ザ・ホライズン(以下BMTH)。5年間待ちに待ったし、本音を言えば、アリーナ/スタジアム・ロックへと飛躍的な進化を遂げた前作5thアルバム『ザッツ・ザ・スピリット』のタイミングで来日して欲しかった。しかし、今年1月に出た6thアルバム『アモ』を聴き、オリジナリティにさらなる磨きをかけた音像にブッ飛ばされた。セールス的にも初の全英チャート1位を獲得し、名実共にトップ・バンドの仲間入りを果たしたわけだが、何よりも今回の来日公演は5年間という空白を埋めるには十分すぎるほど、「超」を何個付けても足りないほど、圧巻のショウを披露してくれたのだ。
8月19日に行われた単独公演は完売となり、場内に入ってみると、フロアも二階席もギュウギュウで立錐の余地もない。ゲスト・アクトのHYDEがライブを終えた後、20時6分に白いジャンプスーツに身を包んだリー・マリア(G)、マット・キーン(B)、ジョーダン・フィッシュ(Key)、マット・ニコルス(Dr)の4人が現れ、最後に赤いスーツ姿のオリヴァー・サイクス(Vo)が登場(*メンバー全員、途中で衣装チェンジあり)。
第61回グラミー賞「最優秀ロック・ソング」にノミネートされた“MANTRA”で幕を開けると、スモークが天井高く噴き上がり、女性ダンサー2人がステージ背面のスクリーン前で踊り、早くも会場は興奮状態に陥った。3曲目“The House of Wolves”に入ると、鮨詰めの会場はモーゼの十戒のごとくスペースが出来上がり、サークル・モッシュの輪が4つできる凄まじい盛り上がりを記録。既にフロアからは湯気が立ち昇り、BMTHを待ち望んでいたファンの飢餓感は沸点に到達していた。
その後も“Shadow Moses”ではダンサー2人が白い旗が振ったり、“Happy Song”においては3人のチアガールが出てきたりと、計4人のダンサーが曲によってステージを華やかに彩り、オリヴァーのそばで踊ったりもする。また、“Antivist”ではスクリーンに複数の目玉が蠢いたり、カラフルかつポップなフラワーの映像を駆使するなど、エンターテイメント性に長けた演出もセンス抜群である。
また、オリヴァーはサークル・ピットやウォール・オブ・デスを煽り、“mother tongue”では曲中に積極的にコール&レスポンスを図るなど、常にフロアを念頭に置いたパフォーマンスで焚き付けていく。フロントマンとして会場の四隅に目を光らせ、舵取りを行うパフォーマンスにも自信が漲っているようだった。もう一つ嬉しかったのはスタジアム・ロック路線に突き進み、エレクトロ要素も増量してスタイリッシュに洗練された曲調にシフトしていたので、ライブもより聴かせる方向に軸足を置いているのかと思いきや、それはとんでもない誤解だった。デビュー時のブリブリ、ゴリゴリのデスコアに通底するヘヴィな牙は持ち続けたまま、華麗なる音楽的進化を遂げていたということだ。オリヴァーは何度も膝を折り曲げて、ステージに屈み込んで渾身のスクリームを連射する場面も多々あり、自分たちの出自を忘れていない姿勢にも胸が熱くなった。
蓋を開けてみると、『アモ』の楽曲を中心に据えつつ、4thアルバム『センピターナル』収録の“Can You Feel My Heart”も聴けて大満足。そして、圧巻はアンコールで披露した『ザッツ・ザ・スピリット』収録の“Drown”〜“Throne”の2連打だろう。特に後者はサマソニでも曲が始まった瞬間に観客がドドドーッと前に詰めかける騒乱状態となったが、この日も鼓膜を蹴破る特大級のウォー!ウォー!の大合唱が会場に轟く。その光景を観て、全身が粟立つのを感じた。そう、この2曲に限らず、どの曲もシンガロングを誘発し、観客と一体化できる楽曲を数多く持っているのが、今のBMTHのストロング・ポイントと言える。キャッチーなメロディ・センスに磨きをかけた『アモ』を作り上げたことにより、過去曲にもいい影響を与え、すべてがブラッシュアップされたような無敵感も感じたほど。
この日はオリヴァー本人の口から11月にまた来るよ、という報告もあった。機会があれば是非、今のBMTHのライブを観てほしい。次回も度肝を抜く最強のパフォーマンスを魅せてくれることだろう。(荒金良介)
<SET LIST>
MANTRA
Avalanche
The House of Wolves
medicine
wonderful life
Shadow Moses
Happy Song
mother tongue
Can You Feel My Heart
sugar honey ice & tea
nihilist blues
Antivist
Follow You
[encore]
Drown
Throne