パスピエの新しさは、ポップであることとロックバンドであることを両輪で回しているところにあると思っている。そしてその両輪をともにフル稼働させ、J-POPと真正面から向き合ったのが今作だ。漫画家・高橋留美子原作のアニメ『境界のRINNE』とバナナマンの単独ライヴのタイアップ曲、そしてCURNELIUSの“NEW MUSIC MACHINE”のカヴァーの計3曲、完全無欠のポップスが揃っている。バンドのグルーヴとエネルギーに負けないビビットな歌メロ。《お願い　どうしても見たい触れたい思い通り／新しいものだらけ　選ぶ勇気をくださいな》（“トキノワ”）という大胡田なつきが生きている中で得てきた感覚と世界を記した言葉。彼女の歌はキュートでコケティッシュなキャラクター性をそのままに、そこに固有の色彩や温度が描かれ始めている。この作品でパスピエは謎めいたサブカル感、あるいは「わかる人にだけわかればいい」的なスノビズムを完全に振り切った。そしてバンドが培ってきたポップネスと身体性でもって、この国のメインストリームの音楽を真新しく塗り替えようとしている。（若田悠希）