昨年、映画『STAND BY ME ドラえもん』の主題歌“ひまわりの約束”がロングヒットを飛ばし、メロディメーカーとしての卓越した才能を世間に再認識させた秦 基博。そこから約10ヶ月ぶりのシングルとなる本作は、樹木希林主演の映画『あん』の主題歌だ。あるどら焼き屋に集う人々の人生を通し、生きる意味を描いた物語。郷愁漂う儚いピアノや繊細な秦の歌声は作品の世界観を見事投影し、素晴らしい主題歌に仕上がっている。
だが、本作は主題歌としてだけでなく、ポップミュージックとして既に素晴らしい。なぜなら、本作には「負債」が描かれ、それが私たちの感覚としっかりコネクトするからである。《話せなかったこと》は何なのか、そのシチュエーションも、本作では一切描かれていない。だが、それはある人には後悔、ある人には喪失かもしれない何かであり、また、「負債」を抱え、それでも生きていかなくてはいけないのが私たち自身の姿なんだと、本作を聴いた瞬間にわかるのである。人を元気づけるだけではない、これもまたポップミュージックの真骨頂、そして秦 基博の真骨頂だ。(林田咲結)
“水彩の月”(Short Ver.)
誰もが「負債」を抱えて
秦 基博『水彩の月』
2015年06月03日発売
2015年06月03日発売
SINGLE