最も美しく、最もダーク

カート・ヴァイル『ビリーヴ・アイム・ゴーイン・ダウン・・・』
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ALBUM
カート・ヴァイル ビリーヴ・アイム・ゴーイン・ダウン・・・
前作は、カート・ヴァイルなりに最もアプローチしやすくて、高揚感がある驚きの作品だった。次はどうするのかと思っていたら、LA、アセンズ、ジョシュア・ツリー、ブルックリンと旅しながら、彼の魂を探求するような作品が作られた。プロデューサーにロブ・シュナップ(ベック、エリオット・スミス)を迎え、先に公開された“プリティ・ピンピン”でも分かるように、サウンドのクオリティがもの凄く高く、その美しさと心地よさに耳がいってしまうのが特徴。だから、さらに王道で明るいサウンドを目指したのかと思いきや、よくよく聴くと「鏡に映った知らない人が自分だった」と歌っている。さらに聴き進めると「言いたくないけどこれが人生」という境地に辿り着き、途中言葉も失い、インストの曲へと続く。気づけばものすごくディープな所へ落ちてしまう作品なのだ。そもそも、タイトルが「俺は落ちて行く」という意味だし。フィンガー・ピッキングとシンセサイザーの音が美しすぎて心を奪われるが、歌詞が交差すると、哀しさとメランコリーが煽られる。それが、今作を彼の最も美しく、最もダークな作品にしている。(中村明美)
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