圧倒的な才能をその楽曲越しに放射しながら、米津玄師というアーティストの音楽性は「ここではないどこか」――正確に言えば「日本の音楽シーン以外のポップミュージックの潮流のどこか」を指し示すものだった。が、自身初の連続ドラマ主題歌となった“Lemon”で彼は、そのアレンジの端々にアメリカ始め世界のポップシーンとの同時代性を存分に感じさせつつも、古き良き日本のポップスのメロディ絶対主義な価値観へと想いを馳せている――ということが、死と別れを綴った歌詞にひと筋の希望を投影する“Lemon”の麗しの旋律からもリアルに窺える。ボカロの世界で花開いた「破格の異才」が「日本のポップの王道」とリンクした、まさにその決定的瞬間と呼ぶに相応しい1曲だ。そして今作は、彼が「ポップ王道の歴史の一部」として取り込まれることなく、鮮烈なカウンター的存在として作用し続けていくであろうということも、カップリングの“クランベリーとパンケーキ”、“Paper Flower”も含め確かに予感させる作品でもある。その進化はいよいよ途方もない領域へと到達しつつあるようだ。(高橋智樹)