本物だ!としかいいようがない

ザ・レモン・ツイッグス『ゴー・トゥ・スクール』
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ALBUM
ザ・レモン・ツイッグス ゴー・トゥ・スクール

プロデューサーとして10代後半から20代のミュージシャンと日々接している自分だが、とにかく優れた音楽センスを持つ若者の多さに驚かされている。彼らがよく口にするのが、両親からの音楽的影響。50sに生まれたロックンロールは、その進化のスピードこそ停滞しているが、より深化した形で下の世代へと受け継がれているのかもしれない。そしてそんなロック英才教育を受けたミュージシャンの最高峰ともいえるのが、このザ・レモン・ツイッグスだ。

2年前にデビュー作をリリースした時は、兄のブライアン19歳、弟のマイケル17歳。幼少時からビートルズビーチ・ボーイズキンクスに夢中だったと語る彼らは、父親でミュージシャンのロニー・ダダリオから受け継いだポール・マッカートニー直系のメロディー・センスを、フォクシジェンのジョナサン・ラドーをプロデューサーに迎えたビンテージ・サウンドに乗せ、60s、70sロックのエッセンスを最上の形で現代に蘇らせてみせたのだ。その音は大きな話題となり、エルトン・ジョンからクエストラヴまで、数々のミュージシャンから賛辞も寄せられた。

トッド・ラングレンビッグ・スターといった名前をメディアから引き合いに出されたザ・レモン・ツイッグスだったが、この待望のセカンドは、なんとそのトッド、そしてビッグ・スターのドラマーだったジョディ・スティーヴンスまでもゲストに迎えた、一大ロック・オペラ〜ミュージカル仕立てのアルバムなのだから驚きだ。

子供のいない夫婦に養子として迎えられ、人間の男の子として育った純粋な心を持つチンパンジーのシェーン。彼がいじめられ、仲間外れにされ、学校に放火して100人を殺すまでに追いつめられる様を通し、善と悪、光と闇に引き裂かれる魂を複雑に描いたこの作品は、ザ・フー『トミー』、プリティ・シングス『S.F.ソロウ』といった往年のコンセプト・アルバム同様に、普遍的な深みを持ったアルバムだ。

学校のクイーンに童貞を捧げる場面ではビッグ・スターの完璧なオマージュを捧げ、そしてトッド・ラングレン演じる父親との軋轢を甘酸っぱいメロディーのピアノ・ロックで表現するなどのエスプリも最高。そして24chのアナログ卓とテープ・マシーンといった70sそのままの機材を使い、プロデュースからミックスまで自らの手で仕上げた驚愕の質感。特にドラム・サウンドは絶品だ。懐古主義だと一蹴することはとてもできないこの名盤。現代の若者たちにどんな衝撃を与えるのか、考えるだけでワクワクする。(片寄明人)



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ザ・レモン・ツイッグス『ゴー・トゥ・スクール』のディスク・レビューは現在発売中の「ロッキング・オン」10月号に掲載中です。
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ザ・レモン・ツイッグス ゴー・トゥ・スクール - 『rockin'on』2018年10月号『rockin'on』2018年10月号
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