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    UKロック好きでいる幸福

    マイルズ・ケイン『クー・ド・グラース』
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    ALBUM
    マイルズ・ケイン クー・ド・グラース

    これは最高のロックンロール・アルバムだ。近頃これだけ粋で痛快で色気のあるロックンロールをやるUKのミュージシャンは滅多にいない。2曲目“Cry On My Guitar”がまんまT・レックスで、笑うと同時に楽しくなる。ギター・リフから細かいビブラートのかかったボーカルからブギのリズムからコーラスの感じから、よくぞここまで似せたというぐらい。それでいてマイルズ・ケインらしい個性は全く失われていない。モッド、グラム、パンク、パワー・ポップ、ブリットポップ、マンチェ風など、UKロックのいいとこどり、というよりはマーク・ボランが生きていてその後のUKロックの流れを彼なりに解釈したらこうなったかも、という楽しい妄想を掻き立ててくれる全10曲32分弱。あっという間に聴き終わってまた頭からリピートするこの感覚も70年代っぽい。

    ほとんどの曲はジェイミー・Tとの共作で、ふたりは10年ほど前から一緒に曲を作ろうと話し合っていたという。LAでケインがジェイミーのライブに行ったら、たまたまラナ・デル・レイがいて、彼女のたっての希望で一緒に曲を書くことになった。それが先行シングル・カットされた“Loaded”だ。これもマーク・ボラン風のキッチュな感覚のバラードになっていて最高。

    前作と比べても全体にアッパーでエネルギッシュ。それでいて歌詞のほとんどは「アデルのような破局の歌」(マイルズ)だというのだから面白い。ソロとしては『ドント・フォーゲット〜』以来、5年ぶりの3作目で、あえて間を置いたのではなく結果としてそれだけの時間がかかってしまったということのようだが、そんな苦労のあとなど微塵も見えないのもいい。酷評していたピッチフォークには、お前ほんとにヤボでセンスねえなと言ってやりたい。(小野島大)



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    マイルズ・ケイン『クー・ド・グラース』のディスク・レビューは現在発売中の「ロッキング・オン」10月号に掲載中です。
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    マイルズ・ケイン クー・ド・グラース - 『rockin'on』2018年10月号『rockin'on』2018年10月号
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