2014年発表の前作『リッスン』はヒップホップ〜ソウル〜ファンクに接近した異色作で、充分なクオリティは維持していたものの、やはりどこかデビュー時の勢いを失いつつあるバンドの焦りを感じさせる内容だった。その後、アルバムのツアーを終えスタジオに直行、『リッスン』の流れを引き継いだ5作目を作り始めたものの、すぐにバンドが瓦解してしまったというのも、その印象に拍車をかける。しかし、そこで挫けずもう一度団結できたからこそ、本作のバンド・グルーヴは過去にないほどに緊密なものになっているのだ。再集結したバンドが本作の目標として掲げたのは、「『ディフィニトリー・メイビー』的なもの」つまり、「モダン・クラシックなブリティッシュ・アルバム」だという。結果を言えば、確かに本作は2018年における最良のブリットポップ・アルバムに仕上がっている。オアシス、ブラー、スウェード、パルプ、スーパーグラスからキャストやメンズウェアまで、ブリットポップ期のバンドからの引用が万華鏡のようにキラキラとちりばめられながら、黄金のメロディが絶えず鳴っている。昨年発表したベスト盤と遜色ないような各曲の質の高さと、ソングライティングの振れ幅である。
ギター・ロックが低迷し続ける今、これほど開き直った快作を上梓できるバンドが他にどれだけいるだろうか。恐らくは最大のインスピレーション源であるオアシスも、ノエルはザクザクと新境地へと歩を進め、リアムがようやくロック歌手としてのアイデンティティを取り戻したような状況。そのような中、イギリスを代表するロック・バンドのひとつとして、「あんた達が王道をやらないなら代わりに俺達がやってやるよ」とでも言うような本作のアティテュードこそ、正しきモダン・クラシックなブリティッシュのそれである。(長瀬昇)
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