見事な充実作だ。アーティストの絶好調ぶりを示す15曲55分。米トラップの最重要人物のひとり、RL・グライム(アール・エル・グライムと読む)の4年ぶりの2作目である。写真家の母と建築家の父の間にLAで生まれ、大学では音楽ビジネスについて学ぶという恵まれた環境に育ち、2012年にデビュー。同年6月にカニエ・ウェストらの“マーシー”のリミックスを手がけて一躍知られるようになり、2014年にファースト・アルバム『VOID』をリリースした。同作からシングル・カットされた“Core”がクラブ・アンセムとして大ヒットして、以降はコンスタントに新曲を発表し、新作アルバムがもっとも待たれていたアーティストのひとりである。
ラップやヒップホップに影響を受け、ジャスティスやMSTRKRFT、ボーイズ・ノイズなどにインスパイアされて音楽を作るようになったRL・グライムは、もともとクロックワークという名でビッグ・ルーム系のEDMを作っていたが、期待されるジャンルが限定されてきたことで限界を感じ、新たにRL・グライムの名で活動を始めた。前作『VOID』はビッグ・ルームEDMとは異なる密室的でアンダーグラウンドなトラップ〜ベース・ミュージックが高い評価を受けた。だが彼を巡る状況が激変し制作環境も大きく変わったであろう本作は、ミゲル&ジュリア・マイケルズ、タイ・ダラー・サイン、デイヤ、チーフ・キーフといった多彩かつ豪華なゲスト陣とのコラボを展開し、前作よりも明るく、大きく、柔軟で多彩で開放的なダンス・ミュージックをやっている。前作が彼の内面世界の追求の結果なら、本作は前作の大成功後に彼の目の前に開かれていった世界を反映していると言えるだろう。
重低音がヤバいほど響き渡るオープニングの“Feel Free”のインパクトが強烈で、この曲の音圧の高さ、音の強靭さ、スケール感が本作を象徴している。エモーショナルでパワフルでエネルギーに溢れているのだ。特にアルバム中盤に連続投下されるレフトフィールドなインスト曲は、彼自身の高揚した気分が伝わってくるようなテンションの高さと刺激の強さがあって、かなり興奮させられた。大バコ向けのアンセムから小バコ向けのカッティング・エッジなダンス曲、アンビエントで静謐で内面的な曲、エモいボーカル曲まで内容も多彩で、アルバム全体としても起伏に富み飽きさせない。
ボーカル・ナンバーの中にはやや凡庸なR&Bもあって、ポップで開かれた分、ファーストのようなアクの強い個性は少し薄れた感はある。だがおそらく本作でRL・グライムはさらに支持を広げるだろう。(小野島大)
『ノヴァ』の各視聴リンクはこちら。
RL・グライム『ノヴァ』のディスク・レビューは現在発売中の「ロッキング・オン」10月号に掲載中です。
ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。