昨年10月に急死したトム・ペティのコンピレーション。アウトテイクやレア・トラックをふんだんに紹介しつつ、ザ・ハートブレイカーズやソロとしての楽曲を織り交ぜながら、あくまでもロックンローラーとしてのトムの魅力を伝える構成の内容になっている。
トムは60年代のロックやR&Bにどっぷり漬かって育った世代で、さらにポップ・ミュージックの魅力にも意識的だったので、ロック的なエッジと聴きやすさを独特な形で両立させたアーティストとして、不動の人気を誇っていた。そんな音楽的志向が妙にブルース・スプリングスティーンを思わせるところでもあるし、ボブ・ディランやジョージ・ハリスンらからスーパーグループ、ザ・トラヴェリング・ウィルベリーズへの参加を持ちかけられたゆえんでもあるはずだ。
収録曲は徹底してトムのロック魂を最もよく伝える音源のみを取り上げているところがとても潔く、そこが素晴らしい。もちろん、トムは時代の変遷とともにサウンドやアプローチなど、さまざまな試みと工夫も繰り返してきたのだが、そんな彼の業績はアルバム毎に振り返っていくのが最もふさわしい接し方だろう。このコンピではそうした側面はすべて割愛し、トムがいかに優れたロック・ソングの書き手であり、パフォーマーであったかということに徹しているところが嬉しいし、あらためて、とても惜しい人を失くしたとわからせてくれる内容になっている。
CD2枚と4枚のバージョンとがあるが、いずれも分岐点となるのがトムにとっての最大のヒット曲のひとつとなった“アイ・ウォント・バック・ダウン”のライブ音源。ポップ・ロックの極致だったこの曲のものすごくエッジの立った、それでいて聴きやすい演奏がこのコンピの肝をよく物語ってくれている。(高見展)
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トム・ペティ『アメリカン・トレジャー:デラックス・エディション』のディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』12月号に掲載中です。
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