アオキ少年の夢は終わらない

スティーヴ・アオキ『ネオン・フューチャー Part. 3』
発売中
ALBUM
スティーヴ・アオキ ネオン・フューチャー Part. 3

率先してパーティの狂騒を担うサービス精神(フロアに巨大ケーキを投げ込むなど)を持ち合わせているせいで少し誤解されがちなのだが、スティーヴ・アオキはクリエイターとして非常に洗練されたセンスの持ち主だ。それは、2012年にリリースされたデビュー・アルバム『Wonderland』の頃から一貫している。年中ステージに立って、いつの間にこれほどの楽曲を作っているんだというところもあるが、さまざまなアーティストとコラボ曲を生み出して連続リリースする『5OKI』EPのプロジェクトに続いては、ナンバリング・タイトルの最新アルバム『ネオン・フューチャー Part.3』が届けられた。とは言え、『ネオン・フューチャー』シリーズはもともと最初の2作のみが構想・制作されていたはずなので、この新作では同シリーズに「アオキのスタンダード」としての新しい意味が付与されているように思う。キャッチーなエレクトロ・ハウスを軸としながらも、トロピカル・ハウスやフューチャー・ベースの湿り気を帯びた情緒にも目配せを怠らない、相変わらず良質なEDM作である。びっくりさせられるようなイノベーションは希薄だけれども、足繁く通ってしまう定食屋さんのような信頼感と魅力が、アオキ作品には備わっているのだ。

“ウェイスト・イット・オン・ミーfeat. BTS”は両者の最新コラボ曲として哀愁のグッド・メロディがデザインされた点が新鮮なほか、“プリテンダー feat. リル・ヨッティー & AJR”では意外性のある組み合わせでジャンルの垣根を越えた最新ポップを生み出している。ヒップホップ/トラップ・ミュージックに寄せた昨年のアルバム『〜プレゼンツ・コロニー』と比較しても、やはり『ネオン・フューチャー』シリーズはアオキ流ダンス/ポップが多様なエレメントを呑み込んで未来を夢見る実験場と言えるだろう。DIM MAK Records主宰としてインディ・ダンス/ロックを経由し米国発EDMの隆盛を担ってきたアオキは、歴戦のロック/パンク・アクトとのパイプも太い。恍惚としたエレクトロ・サウンドとバンドの推進力が相見える“ホワイ・アー・ウィー・ソー・ブロークン feat. ブリンク182”や、滑空するような爽快なトラックにボーカルが映える“ゴールデン・デイズ feat. ジム・アドキンス”あたりは、ロック・リスナーにとっても感慨深いところ。『ネオン・フューチャー』の真意に迫る演説を織り込んだ壮大なクライマックスまで、DJパフォーマンスの狂騒とは一線を画した作風に、アオキの抱く理想と夢が詰め込まれている。(小池宏和)



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スティーヴ・アオキ『ネオン・フューチャー Part. 3』のディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』1月号に掲載中です。
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スティーヴ・アオキ ネオン・フューチャー Part. 3 - 『rockin'on』2019年1月号『rockin'on』2019年1月号
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