高揚を裏切るアンバランス・ポップ

トロ・イ・モワ『アウター・ピース』
発売中
ALBUM
トロ・イ・モワ アウター・ピース

トロ・イ・モワことチャズ・ベアーの約1年半ぶりの新作である本アルバムは、細胞のひとつひとつが一気に活性化したかのような、目覚めと躍動の一枚となった。ポートランドに拠点を移して制作された前作『ブー・ブー』が、インティメットで閉じたサイケデリックのインナー・ワールドが広がっていたアルバムだったことを思えば、再び地元カリフォルニアのオークランドに舞い戻って作られた本作で、チャズはそんな前作から逆方向に舵を切ったとも言えるだろう。輪郭の滲んだ淡いサイケデリック、アブストラクトな点描のエレクトロをいかにテクスチャーとして重ねていくかに重点を置いていた前作から一転、ここでは思いっきり醒めてクリアなビートが躍っている。ダフト・パンクを彷彿させる“オーディナリー・プレジャー”や、アフロの軽妙なリズムを取り入れ弾む“ローズ・オブ・ザ・ユニバース”など、基調となっているのはハウス、ファンク、そしてディスコ。注目の女性シンガー、アブラをフィーチャーした“ミス・ミー”や“ニュー・ハウス”など、メロウなR&Bチューンのインサートで中盤は一呼吸置くものの、その後は再び先行シングル“フリーランス”や、本作で最もチアーでダンサブルなハウス曲“フー・アム・アイ”が続くのだ。

本作のそんなポップ・モードは、ビビッドなピンクのグラデーションで彩られたアートワークにも象徴的だし、ダンス・ミュージック回帰という意味では初期のトロ・イ・モワ、例えば『アンダーニース・ザ・パイン』(2011)あたりの、チャズの原風景を感じさせるものでもある。ただし、本作にはダンス・トラックとしてのスムースな高揚を敢えて阻害するような、無心で心地よさに埋没しきれない引っかかりを残す奇妙な意匠が点在し、聴き進める中でじわじわと存在感を増していくのが面白い。その最たる例が“フリーランス”だ。軽快な足取りでステップを踏むディスコ・ポップの装いでありながら、シンセ・リフとワウ・ベースがチャズの吃音を思わせるボーカルに引っ張られ、徐々にちぐはぐとバランスを崩し、自動生成された制御不能のビートのようにとっ散らかっていく。主体的に踊っていたはずが、いつの間にか踊らされている感覚に陥るその不安定さは、「文化が消耗品になってしまった現代社会」という本作のテーマを投影したものだ。かつて彼がチルウェイブの代名詞だったことを思えば遥かに遠い場所まで来たと感じるし、むしろチルウェイブ自体が(かつてシューゲイザーがそうだったように)未分化な何者にでもなれる過程の音楽だったということなのかもしれない。(粉川しの)



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トロ・イ・モワ『アウター・ピース』のディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』2月号に掲載中です。
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トロ・イ・モワ アウター・ピース - 『rockin'on』2019年2月号『rockin'on』2019年2月号
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