ポップ・ミュージックの転換点

ソランジュ『ホウェン・アイ・ゲット・ホーム』
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ALBUM
ソランジュ ホウェン・アイ・ゲット・ホーム

突如発表された2年半ぶりの4作目。リリースから2週間ほどたった時点でのセールス状況は、前作『ア・シート・アット・ザ・テーブル』には及ばない。というのも、本作の音楽的な構造が伝統的なポップ・ソングの構造から離れた、いささかわかりづらいものになっているからではないか。

明確なフックやサビがなく、短いフレーズを繰り返しながら、浮遊するようにサウンドに溶け込んでいくボーカルは、ソランジュの音楽に於ける主役ではない。違う言い方をすると、本作で鳴っているのは、歌ものではあるが、歌を聴かせるための音楽ではない。6曲のインタールードをはさみ連続していく19曲は、明確な中心がなく、細かく重ねられたレイヤーや、断片的に連なっていくミニマルなフレーズ、語り、現実音、SEなどがコラージュされ、立体的にデザインされた音響の中に鳴っている。そのテクスチャーを感じ取る音楽なのだ。

こうしたコラージュとしての音楽のあり方は、映画音楽、というか音楽、効果音、声といった音要素がミックスされ作られる映画のサウンドトラックに近い。ソランジュの声あるいは歌は、その中のパーツとしてデザインされている。本作がプロデュースから作詞作曲まで、完全にソランジュ本人のコントロール下にあることを考えると、その特異性がわかるだろう。ジョン・キー、ジョン・キャロル・カービーを軸に、ファレル・ウィリアムス、メトロ・ブーミン、タイラー・ザ・クリエイター、スティーヴ・レイシー、あるいはデヴ・ハインズ(ブラッド・オレンジ)、パンダ・ベアといった多彩なプロデューサー陣、サンファ、グッチ・メインといったボーカリストたちが参加したラインナップはかなり豪華なものだが、ソランジュ自身が全体の構成を俯瞰して考え、それぞれの役割を明確に設計し配置・指示することで、『ホウェン・アイ・ゲット・ホーム』という作品が作られている。

Apple Musicでも同名の33分ほどのショート・フィルムが公開されており、それがアルバムが伝えようとしているものをよく表している。彼女の故郷であるヒューストンの街の情景や人々、歴史、伝統、そしてそこに根付くブラック・カルチャーの美しさや多様性といったものを、明確なストーリーやメッセージではなく多層的にコラージュされたイメージの乱反射で伝えようとしている。

そうしたものが、コマーシャルなポップ・ソングとして一般的には成り立ちにくいのは当然と言えるだろう。だがソランジュの試みは、ポップ・ミュージックの構造自体を変えようとしている。 (小野島大)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』5月号に掲載中です。
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ソランジュ ホウェン・アイ・ゲット・ホーム - 『rockin'on』2019年5月号『rockin'on』2019年5月号
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