JAY-Z自身による『4:44』全曲解説、全サンプル、インスピレーションとなった曲
2017.07.11 17:50
日本でもようやく入手可能となったJAY-Zの最新作『4:44』。これまでで最も自分を曝け出した作品だと、すでに高い評価を得ているが、アメリカで発表された時に、「160 iHeartRadio」に出演したJAY-Zは自ら全曲の解説をしている。
https://www.iheart.com/news/jayz-explains-444-song-meanings-iheartradio-15951105/
さらに、全曲で使われたサンプルがこちらで紹介されている。
https://www.youtube.com/watch?v=QbedcJoKKL8
また、今作のインスピレーションとなった曲のプレイリストがTidalで発表されている。
1. Marvin Gaye – “What’s Going On”
2. Prince & The Revolution – “Purple Rain”
3. Bob Marley & The Wailers – “One Love / People Get Ready”
4. Bob Marley & The Wailers – “Them Belly Full (But We Hungry)”
5. Playboi Carti – “Magnolia”
6. Camp Lo – “Luchini AKA This Is It”
7. Michael Jackson – “Rock With You”
8. Shuggie Otis – “Aht Uh Mi Hed”
9. Boogie Down Productions – “Criminal Minded”
10. Jimi Hendrix – “Bold As Love”
11. Nina Simone – “Wild Is The Wind” (Live In New York, 1964)
12. James Blake – “Retrograde”
13. Ms. Lauryn Hill – “Ex-Factor”
14. Brazilian Girls – “Don’t Stop”
以下JAY-Zによる全曲解説と歌詞の内容など補足。
"Kill Jay Z"
「1曲目は、”Kill Jay Z”という曲で、もちろん、文字通り俺を殺して欲しいと言ってるわけじゃない。この曲で言いたいことは、エゴについてなんだ。つまり、エゴをいかにして完全に殺すのかということ。それができて初めて自分の弱さも曝け出せるし、正直な会話ができると、言っている」
この曲の歌詞では、彼がドラッグ中毒だった兄を12歳の時に銃で撃ったこと、発売前のアルバムをプロデューサーが、ブートレグにして配布しているのを知ってパーティで刺したことなど自分の過去の罪を告白している。ただ、当初最も注目を集めたのは、カニエ・ウェストへのディスと、ソランジュが2014年METガラのパーティの後、エレベーターでJAY-Zを蹴った有名な事件について触れ、彼が浮気を認めていること。
カニエに対する歌詞。
「学校を退学して(『ザ・カレッジ・ドロップアウト』とかけてる)、主義まで見失ったか/人に裏切られたりして/同情するよ/だが、”お前ら全員クソだ”って態度は間違ってる」
「俺は、お前に20ミリオンドルあげたのに/そのお返しが、ステージでの20分間のディスかよ/何考えているんだ?」「”お前らおかしい”と言ったが/みんなが狂っているというなら、一番狂ってるのはお前だよ」(→カニエは、アップルからのオファーがあったが、JAY-Zが創設したTidalと契約したことで2000万ドルを受け取っている。20分間のディスというのは、カニエがステージで、メルトダウンして入院する直前に行ったライブで、20分間にわたりJAY-Zとビヨンセをディスったことを指している。ちなみに、現在カニエもJAY-ZもTidalでの契約について、お互いがお互いを訴えると言われていて、カニエはTidalの創設メンバーから脱退すると言われている)
ソランジュに対する歌詞。
「ソランジュをけしかけてしまった/自分のほうは悪かったと分かっていながら」(→ビヨンセの『レモネード』で語られていた浮気を認めている)
「エリック・ベネイ(浮気してハル・ベリーと離婚)になるところだった/世界一の女から逃げられるところだった」
"The Story of O.J.”
「“The Story of O.J.”は、カルチャー全体として計画があらかじめある中で、俺達がいかにしてそれを前進させるのかということについての曲。例えば、俺達はみんな金を儲けるが、でも結局みんなその金を失う。アーティストというのはとりわけそうだ。しかしそういう中で、いかにしてある種の成功をした時に、それをそれ以上の大きなものに変えることができるのか、について語ったものなんだ」
この曲は、MVで分かるようにアメリカのカルチャーにはびこる人種差別と黒人のステレオタイプについて触れている。JAY-Zはそれを打破する方法は経済的な独立だと語っている。MVがアニメなのは、かつてディズニーなどのメジャースタジオがアニメにおいて黒人をステレオタイプに描いたことを批判している。"O.J.”はO.J.シンプソンのことで、彼が「俺は黒人ではなくて、O.J.だ」と言った有名な言葉を歌詞で引用している。黒人として成功するために、彼がそのカルチャーから自分を切り離して考えようとしたことについて触れている。
歌詞では、「黒人なら肌の色が薄くても、濃くても、偽物でも、本物でも、金持ちでも、貧乏でも、飼い馴らされていても、反抗的でも、黒人であることには変わりはない」と言っている。そそしてそんな状況を打破する方法として、「金銭的な自由を得ることが俺の唯一の希望だ」と語っている。
"Smile”
「”Smile”は曲で語られていることそのままだ。生きていれば、悪い時期というのがあって、その悪い時期のせいでふたつのことが起きる可能性がある。ひとつは、そのせいで、自分がそこから抜け出せないような型にはまってしまうこと。もうひとつは、そういうことを経験したからこそ、自分の未来をより良いものにできるということ」
この曲でJAY-Zは母親Goria Carterとコラボしているが、母は、自分がレズビアンであることをカムアウトしている。
歌詞では「ママは子供が4人いたけど、本当はレズビアンなんだ/長年隠していなくちゃいけなかった」「だけどのその苦痛に耐え切れなくて」「だから恋に落ちた時喜びの涙を流した/俺にはそれが男性だろうと女性だろうと関係なかった/これまでの嫌悪を乗り越えて/あなたにただ笑って欲しかったから」と語っている。
そして母は、影に生きることの辛さを語り、「でも時代は変わっている/だからもう自由になる時が来たと人が言う」「人生は短いから/自由になる時が来た/愛したい人を愛して/人生に保証はないから/そして笑って」と曲を締めくくっている。
”Caught Their Eyes"
「この曲は自分の置かれている状況と周りを認識するようにと語った曲。歌詞で『お前のボディーランゲージはすべて改善可能なんだ/お前と俺の違いは何だと思う』と言っている通りで、自分の周りをしっかり意識しろということなんだ」
これはフランク・オーシャンが参加している曲だが、歌詞においては、プリンスが亡くなった後に財産を管理している財団とレーベルについて批判している。
「プリンスは亡くなる前に俺の目を見て、彼の意志を語ったんだ/だけど、L. Londell McMillan(プリンスの元弁護士)は、色盲に違いない/彼らにはパープルの瞳からグリーンしか見えていないから」(→プリンスは、JAY-ZとTidalでの配信に同意していて、プリンス自身も生前それを公で語っていた。しかし、言葉のみのやり取りで、正式に文書化されていなかたっために、亡くなった後Londel McMillan率いる財団が訴えた。また、プリンス本人がやらないと分かっていることでも、金のためにやっていることについて語っている)
”4:44”
「これは俺が書いた曲で、アルバムの核心と言える曲だ。実際アルバムのど真ん中に位置する。俺は、ある朝マジで4:44AMに目覚めて、この曲を書いたんだ。そして、それがアルバムのタイトルにもなったし、すべてになった。これがタイトルトラックなのは、あまりにパワフルな曲だったから。しかも俺がこれまで書いた最高の曲のひとつだと思う」
歌詞では冒頭に「しばしば女遊びをしたことを謝る」と語っている。「子供が生まれるまで、女性の目を通してそれがどういうことなのか理解できなかった」とも。
またビヨンセが流産したことについても触れ、「自分がしっかりとしていなかったから、君の体がそれを受け付けなかったのかもしれない/申し訳なかった」など、ビヨンセのみならず、過去に付き合った女性に対しても、感情もなく遊んだことを謝っている。さらに、「俺は愛が得意じゃない」とも告白している。感情をむき出しにして人と付き合うのが得意じゃなかったと。
"Family Feud”
「これは、カルチャー内での分断について。例えば新しいラッパーが古いラッパーと争い、色んなことを言うことについて。だからここでは、『ファミリー内で不和がある以上は、誰も勝たない』と言っているんだ」
ビヨンセが参加している曲。ドレイクなどがJAY-Zをディスるような曲を発表していることにも触れながら、「億万長者がひとりいるより良いことって何だ?それはふたりいること」と語っていて、これは、自分だけでなく、お互いサポートし合い、Diddyなどもビジネスで成功していることに触れている。なので、古いラッパーと新しいラッパーで貶し合ったりしないで、黒人コミュニティとして全員で成功するのが大事だと語っている。
しかしここで話題になっているのは、”Becky”が出て来ていること。これは『レモネード』の中で、ビヨンセが浮気の相手として使った名前だ。JAY-Zは、「ベッキー、俺を放っておいてくれ」「俺は、許されれば良いことをすぐに台無しにしてしまうから」と語っている。
さらに『ゴッドファーザー』を持ち出して、主役のマイケル・コルレオーネが、家族を顧みず金儲けに走ったことにも触れている。またそのせいで妻が子供を中絶することも。「俺は、マイケルの常識で生きていた」「そのせいでどんなカルマが巡ってくるのか忘れていたんだ」「(妻の)ケイは、未来が不確かだから子供を失う」と。 そして「家族に問題がある時は、誰も成功しない」と語り、レーベルがないアーティストを助けたいとも語っている。
また、ここでもうひとつ特筆すべきは、アル・シャープトンのセルフィーについて語っていること。というのも、それが撮られて話題になったのは、今年の6月18日だ。このアルバムが発表されたのは、6月30日なので、本当にギリギリまで作っていたのが分かる。
”Bam"
「これはダミアン・マーリーとの曲で、曲そのものがジャムのような曲だ。だけど、密かにショーン・カーター(JAY-Zの本名)が、『少しのエゴは必要だ』と言っている曲でもある。俺がこれまでしたことを考えて、JAY-Zが、ここまで生き残るためには、確かに少しのエゴは必要だった、と言っている曲」(→つまり、”Kill Jay Z”で言っていたことを少し緩和させている)
"Moonlight”
「この曲のフックは、『俺達はラ・ラ・ランドで行き止まり/例え勝っても負けるんだ』と言っている。これは、オスカーで『ラ・ラ・ランド』が一旦作品賞をもらい、その後で、それを『ムーンライト』に渡したことを使って、俺達のカルチャーと、どこへ向かっているのかについてをコメントした」
"Marcy Me”
「これはMarcy(JAY-Zが子供の頃住んでいたブルックリンの低所得者住宅がMarcy House)に住んでいた頃をノスタルジックに振り返っている曲。そしてあまりに希望がないことについて。本当に俺にこれができるだろうか?世界一のアーティストになれるんだろうか?と思っている時について。夢はあるんだけど、『本当に俺が世界一のバスケットボール選手になれるだろうか?』と思うことについて。そういう夢を誰もが持っているから」
”Legacy”
「これは曲で語られているままで、言葉による遺書のようなもの。これは俺の娘に語りかけている曲なんだ。娘が曲の始めに、『遺書って何?』と言っている」
この曲でJAY-Zは、黒人の家系が自分達が築いてきたことを次世代が引き継ぐがことが少ないことに触れている。自分はそれを変えて、自分の築いたものを子供達に引き継いで欲しいと語っている。
ただ、歌詞の後半では、「俺の父親は、牧師の息子だったが、その牧師の娘は、牧師の手から逃れることができなかった」と、JAY-Zの叔母が父親に性的虐待を受けていたことを語っている。つまり引き継ぐのではなく、断ち切るべきものについて語っているということ。カーター家に流れる闇のエネルギーをゼロにするのには相当時間がかかったと。
「だけど俺が傷付いたことで、俺は自分自身に多くを見出すことができたんだ」とも。”レガシー”という言葉に深い意味を与えている。