個室で溶けあう実験とポップ

エイヴィ・テア『カウズ・オン・アワーグラス・ポンド』
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ALBUM
エイヴィ・テア カウズ・オン・アワーグラス・ポンド

いまから振り返っても、『フィールズ』から『メリウェザー・ポスト・パヴィリオン』に至る時期のアニマル・コレクティヴの注目のされ方は過剰なものだったと思う。というのは、彼らは彼らの逃避的でサイケデリックな遊び場で変わらず戯れ続けてきた「だけ」だからだ。彼らは00年代のインディにおける大きな潮流を生み出したが、それは結果にすぎない。ただ、その要因のひとつとなったのはエイヴィ・テアが先導する楽曲のポップ・サイドであることは間違いなく、対照的にソロ作ではよりパーソナルな作風を濃くしていった。17年の前作『ユーカリプタス』はその極点である。

本ソロはエイヴィ本人と長年のコラボレーターであるアダム・マックダニエルによって制作されたそうだから、おそらく親密な状況によって生み出された小品だと言えるだろう。アルバムは水に潜ったようなくぐもった音響で幕を開け、やがて弾き語りフォークとエレクトロニック・サウンドのディープな重なりとなっていく。彼個人による、手作りのエクスペリメンタリズムが際立っているのだ。同時に、“サタデイズ(アゲイン)”や“K.C.ユアーズ”といった曲ではアップリフティングなメロディもあり、サウンドの実験性は前提としてもキャッチーな人懐こさは確保されている。より「歌」にフォーカスされたラスト2曲は、思いがけず人肌の温かさを感じる佳作だ。エイヴィ・テア、ひいてはアニマル・コレクティヴの「ポップ」が大きな場所で大勢とシェアするものではなく、聴き手ひとりひとりの柔らかな恍惚に寄り添うものであることをあらためて実感する。先頃出たパンダ・ベアのソロ作と併せて聴きたい、小さくて心地よくてどこまでも優しいエクスペリメンタル・ポップ。わたしだけの桃源郷。 (木津毅)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』5月号に掲載中です。
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エイヴィ・テア カウズ・オン・アワーグラス・ポンド - 『rockin'on』2019年5月号『rockin'on』2019年5月号
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