これが2019年のフリー・ソウル

アンダーソン・パーク『ベンチュラ』
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ALBUM

去年のフジロックではフリー・ナショナルズを率いたバンド編成での熱血パフォーマンスで話題を呼んだアンダーソン・パーク。通算4枚目となる本作は、なんと前作『オックスナード』からわずか5ヶ月という、異例の早さでのリリースだ。

実のところ、この2枚のアルバムは同時期にレコーディングしたものだそうで、ある種の「兄弟」と言えるかもしれない。ただ、実際に聴いた感触は、はっきり言って180度違う――ソウル的な「ヒップホップ・アルバム」だった前作に対し、この『ベンチュラ』は、ヒップホップ的な「ソウル・アルバム」なのだ。

モータウンやスティーヴィー・ワンダーカーティス・メイフィールドやフィリー・ソウルを彷彿させる「温もり感」満載のグルーヴに乗せて、ここでのアンダーソンは、軽快なフロウで歌+ラップを繰り出していく。1stシングルに選ばれた“King James”は、数々の逆境を乗り越えてNBAのスーパースターにまで登りつめたレブロン・ジェームズに捧げた曲で、コミュニティの扶助精神こそが世界を変えていくという前向きなメッセージと、70年代ソウル風の快活なアレンジがぴったりフィットしている。新品の洋服と古着、どっちの良さも引き出し合っている完璧なコーデみたいに。

アルバム全体のソウルフルな印象は、ゲスト参加の女性シンガーたちの存在感によって、より彩りを増していく(これもまた、前作にはなかった要素だ)。王道のラブ・ソングもある一方、彼らしいユーモアも忘れてなくて、たとえば、ジャズミン・サリヴァンが参加した“Good Heels”。ここではジャズミンが彼の浮気相手というキャラ設定で、情事の後に忘れ物を取りに行くのだけど、そろそろ本命の彼女が戻ってきちゃうから、裏の非常階段からこっそり出てってくんない?って言われるという、まるでひと昔前のラブコメみたいな歌。でも、それがちゃんと極上のソウル・チューンになっている。聴き手の心を一発で引きつける場面があって、そこから立ち上がってくる物語がある――そういうソングライティングが、この人は本当に上手い。

本家のスモーキー・ロビンソンがコーラスに参加した“Make It Better”、故ネイト・ドッグの未発表ボーカル(Gファンク好きは号泣必至)を使った“What Can We Do?”なども素晴らしくて、あっという間に時間が過ぎてしまう全11曲。「最近のアメリカのラップって、どこかシニカルで苦手なんだよね」と思っている人にこそ聴いてほしい、心の暖房効率200パーセントの1枚。 (内瀬戸久司)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』6月号に掲載中です。
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『rockin'on』2019年6月号