考えながら踊り続けるために

ホット・チップ『ア・バス・フル・オブ・エクスタシー』
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ALBUM
ホット・チップ ア・バス・フル・オブ・エクスタシー

インディ・ダンス新波として00年代初頭に頭角を現し、独自なディスコ/ファンク/ハウスのブレンドとレコード作りの上手さでフロアとライブ会場とのジャストな中間点にみるみるニッチを築いてみせた彼ら。10年代以降サイド・プロジェクトやメンバー各人のソロが活発化してきたこともあり、本作(通算7枚目)はスタジオ・アルバムとしては実に4年ぶりになる。マルチ・インストゥルメンタリスト/DJ/プロデューサー集団である彼らはこれまで基本的に自給自足型のユニット(イギリスのウータン?)だったが、今回初めて外部プロデューサーを起用。フィリップ・ゼダール(フェニックスフランツ・フェルディナンド他)とザ・xxでおなじみのロディ・マクドナルドというシャープなチョイスは、さすがに音楽に博識な目利きである彼ららしい。

とはいえまず興味をそそられたのはアルバム・タイトルとアートワークだ。HCと言えば幾何学模様やグラフィカルなデザインが定番イメージの印象だが、今回はタイ・ダイ調な版画(メンバーのコスチュームも今回はこのプリントらしい)と古風なレタリングを用いたソフトなアナログ感覚が主眼。そのサイケな色調と相まってタイトルを勘ぐりたくもなる……が、ずばり「愛のメロディ」と題された1曲目にきらめくサウンドと真摯なメロディから、エクスタシー=音楽のもたらすピュアな多幸感であることが明らかになってくる。両腕を上げて踊りたくなるハウス型のエモーショナルなビルドアップ+英国的で抑揚の薄い(=気張らない)歌唱のコントラストという個性は健在ながら、それゆえ時にボイスを音の素材としてメカニカルに処理するきらいもある彼ら。そのストイックで鋭角なところが強いインパクトを残した前作にくらべ、今作は空間性を重視した作りになっており、反復から徐々にモアレを生み出していくビートと細やかな音のデザインとが織り成す広い画布にメランコリックな歌が寄り添う。外部の異なる視点がその余裕を生んだのかもしれないし、彼らも大人になったということかもしれない。80年代エレ・ポップ調なサウンドとクラウトロック(アシュラ期マニュエル・ゲッチングあたり)のスペイシーさが融合した後半は特にどっぷり浸れる。彼らのダンサブルな面を好む方には、やや速効性に欠けるかもしれない。だが2016年以降絶え間なく政治・社会不安―知性派のアート集団だけに彼らも苦悶してきたはず―に揺らされ疲れた心身を癒す本作は、音楽の高揚の力を信じる者を勇気づけるヒューマンな1枚だ。 (坂本麻里子)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』7月号に掲載中です。
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ホット・チップ ア・バス・フル・オブ・エクスタシー - 『rockin'on』2019年7月号『rockin'on』2019年7月号
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