衝動だけを純粋結晶化、これがロックというものだ

スリップノット『ウィー・アー・ノット・ユア・カインド』
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ALBUM
スリップノット ウィー・アー・ノット・ユア・カインド

2年ぐらい前、コリィ・テイラーがストーン・サワーのアルバム『ハイドログラッド』のプロモーションで来日したときに本誌でインタビューしたことがある。その時コリィは、ストーン・サワーはメンバー全員が親しい友だち同士で、同じ気持ちを共有していて、同じ方向を向いているから良いエネルギーが生まれ、それが作品にも反映されている、と上機嫌で語り、こちらから訊いたわけでもないのにスリップノットを引き合いに出して、「それまでバンドっていうのは常に緊張感があってピリピリした関係性のもとに成り立つものだと思ってたけど、ストーン・サワーは全然違うんだ」と話していた。つまり大なり小なりスリップノットの音楽はそうしたピリピリとした緊張感の中で作られている、ということだ。だからこそ、怒りや喪失感、苦悩や孤独や葛藤や破壊衝動など、ネガティブでバイオレントな衝動だけを純粋結晶化したようなスリップノットの音楽が生成されるのである。

『.5:ザ・グレイ・チャプター』以来、約5年ぶりの6枚目にあたる本作は、まさにそういうアルバムに仕上がっている。プロデュースは前作に続きグレッグ・フィデルマン。バンドに対する訴訟騒ぎで解雇されたクリス・フェーン脱退後の初のアルバムである。新パーカッショニストの名前は、今のところ公表されていない。昨年のハロウィーンにリリースされたシングル“オール・アウト・ライフ”はここには収録されておらず(日本盤ボーナス・トラックに収録)、その代わり同曲の歌詞の一節《We are not your kind(俺たちはお前の同類じゃない)》が、そのままアルバム・タイトルに引用されている。“オール・アウト・ライフ”はいろいろな含みのある歌詞だが、コリィは、古い音楽がないがしろにされ、新しい音楽ばかりがもてはやされる現状への異義でもあると語っている。つまりここでスリップノットは現状の音楽シーンや音楽業界への不信感を述べ、「俺たちはお前たちと同じじゃない」と言っているわけだ。もちろんそれは「音楽」以外のさまざまな事象に置き換え可能である。彼らなりの反時代宣言であり、世界に対する断固たる拒絶である。時代の風向きに抗い、自分たちは決してそこにこびへつらうことはない、と宣している。それが本アルバムのテーマでもある。圧倒的な自信と自負。一方ジム・ルートは本作について、これまででもっとも曲作りに時間をかけたアルバムだと述べ、「今の音楽業界はとにかくシングルを出して稼ぐ方向に傾いているけど、俺たちはアルバムでしか味わえない体験を届けたかった」と語っている。つまり、彼らの有り余る衝動、情熱、意欲、才能、怒り、憤り、憎悪、狂気などは、アルバムという器でなければ収まり切れないほど強く大きいというわけだ。

前作『.5:ザ・グレイ・チャプター』は、非常に複雑に内向して屈折した感情を内包したアルバムだった。タイトル通り、単純なラウド・ロックのカタルシスに回収されない、白とも黒とも言い切れない、すっきりしない感情を残す作品だった。だがその割り切れなさ、もやもやしたものを抱えながら続く日常の鬱屈こそが、当時のスリップノットが描きたかったものだった。

だが本作は違う。ポール・グレイの急死という悲劇を経ての陰影を感じさせるものだった前作に比べ、さまざまな感情のベクトルをすべて「怒り」のエネルギーに凝縮して解き放ったような、メーターが振り切れた強烈なラウド・ロック・アルバムとなっているのだ。これは凄い。新作制作にあたりコリィは「新作は『アイオワ』級にヘヴィなものになる」と語ったそうだが、もちろんメンバーの多くが20代だった『アイオワ』制作時と、50代を前にした今では彼ら自身のスタミナも、エネルギーも、技術も、大きく異なる。『アイオワ』のころのような、狂気じみた爆発力や突進力は薄れたが、音の厚みや重量感ははるかに増し、構成力や表現力は格段に進化している。先行公開された“アンセインテッド”は、荘厳な女性コーラスがフィーチャーされたイントロが耳を引くが、コリィはクリーン・ボイスでメロディアスに歌い上げるパートと、デス・ボイスによる強迫的なラップを巧みに使い分け、ドラマティックに盛り上げる。この曲を始め、緩急・強弱・喧噪と静寂、シンガロングできそうなポップなメロディとブラスト・ビートが切り立つように対峙し、弁証法的に止揚することで、恐ろしく劇的で高揚した世界を作っている。

コリィは冒頭に引用したインタビューで、「緊張感なくして優れた音楽は生まれないっていう説は間違ってると思う」と語っている。だが私はやはり、このヒリヒリとひりつくようなスリルと緊張感こそが、ロックの醍醐味だと思う。 (小野島大)



詳細はWarner Music Japanの公式サイトよりご確認ください。

ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』9月号に掲載中です。
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スリップノット ウィー・アー・ノット・ユア・カインド - 『rockin'on』2018年9月号『rockin'on』2018年9月号
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