迷いなき王道、その先へ

リアム・ギャラガー『ホワイ・ミー?ホワイ・ノット』
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ALBUM
リアム・ギャラガー ホワイ・ミー?ホワイ・ノット

リアム・ギャラガーの2年ぶりのソロ新作は、タイトルによってそのテーマがほぼ完璧に言い表されているアルバムだ。「why me?」と「why not」。いずれも70年代にジョン・レノンが描いたドローイングに記されていた言葉から採られている。このふたつの言葉はザ・ビートルズ解散後のジョンの心象を写し取った自問自答であり、リアムが自身のソロ・キャリアの指針をジョン・レノンに見出していたことが、本作のタイトルからは窺えるだろう。そして先行シングル“ショックウェーブ”で《奴らは俺を閉じ込めておこうとしたけれど、ハレルヤ、俺は自由だ》と高らかに歌い上げたように、彼は今まさに「why not」の心境、「俺は俺でいい」という確信に到達したのだ。

「俺は俺でいい」という確信はもちろん、ソロ・デビュー・アルバム『アズ・ユー・ワー』の大成功(全英1位、年間セールスでもトップ10入り!)がリアムにもたらしたものだ。背水の陣で臨んだ前作が見事に未来を切り拓き、初のソロ・ドキュメンタリー作品『アズ・イット・ワズ』の製作によって、彼は過去(オアシス含む)をも取り戻し、昇華することができた。こうして過去と今と未来を繋いだ一本道に立つ本作のリアムには、寸分の迷いもない。

LAでのレコーディングを主体とする制作のプロセスは前作を踏襲していて、グレッグ・カースティン、アンドリュー・ワイアットを筆頭とするソングライティング・チームも、前作と殆ど変わらない顔ぶれだ。そう、基本的に何も変わっていないのだ。ブルーズが香るワウ・ギターが唸りまくる“ショックウェーブ”にしろ、マンチェのヘヴィ・グルーヴが大復活した“ザ・リバー”にしろ、これが唯一無二の答えだと胸を張って『アズ・ユー・ワー』の続編をやっている。ビートルズのメロディ、ストーンズのスリル、ピストルズのアティチュード、そしてもちろんアイデンティティとしてのオアシス。そのすべてを握りしめて進む決意が漲っている。

ただし、ソングライティングの編成には少し変化があった。『アズ・ユー・ワー』にはリアムとカースティンたちとの共作曲と、リアムがひとりで書いた曲が混在していたが、今回は全曲が「チーム・リアム」として書かれた共作曲になっている。つまり、本作はサウンド的にはオールドスクールなロックンロール・アルバムだが、ソングライティングの現場ではコンテンポラリーなポップ・ミュージックの分業制が取り入れられ、対比をなしているのだ。ソロ・デビューの成功によって100%自信を回復したリアムだからこそ、中途半端なソングライター・エゴには走らず、最高のシンガーである自分に相応しい曲のクオリティに注力したということだろう。その結果、本作はロックンロールの大原則を守りつつも、予想以上に様々なタイプのサウンドが投げ入れられ、それをリアムが次々に王道のど真ん中へと打ち返していく、打率10 割の傑作となった。

「西海岸育ちのポール・マッカートニー」とでも喩えるべき“オールライト・ナウ”の清涼なサイケデリックや、ブラック・コンテンポラリーを感じさせる“ワン・オブ・アス”のコーラスのように、本作にはガニ股でドヤドヤ歩く「パーカー・モンキー(兄談)」なリアム像とは一線を画す、フェミニンな柔らかさを持ったナンバーもある。驚くほど繊細なアンビエンスに分け入っていく“メドウ”のオルガンや、“ヘイロー”のホンキー・トンク風のピアノなど、鍵盤楽器のフィーチャーも効いている。中でもとりわけ際立っているのがストリングスの全面的な導入で、ストリングスを最大限活かすために風通しのいい広大な空間が設計されていて、前作が密室のライブハウスの熱気を伝えるアルバムだったとしたら、本作はスタジアム、はたまた野外フェスの開放感を感じる作品なのだ。そしてその開放感を味方につけて伸びやかにどこまでも駈け上がっていくリアムのボーカルが本当に素晴らしい! そんな彼のボーカルとストリングスが互いを高め合っている“ワンス”は、本作でも一、二を争う名曲だ。

ちなみに“ワン・オブ・アス”にはリアムの二人の息子の内でも音楽志向が強く、自分でもバンドをやっている次男のジーンが参加、ボンゴを叩いている。一方、“ナウ・ザット・アイヴ・ファウンド・ユー”は、元ガールフレンドとの間に生まれた子供で、長らく疎遠になっていた娘のモリーに捧げられている。昨年から父娘関係が復活し、再び会えるようになったという彼女に語りかけるように「やっとお前を見つけたよ」と歌う、ちょっとホロリとくるスウィートなナンバーだ。家族、人生、そしてロックンロール。『ホワイ・ミー?ホワイ・ノット』は、そのすべてをひとつひとつ取り戻してきたリアムの、ポジティブなムードに満ちた現在地で力強く鳴っている。 (粉川しの)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』10月号に掲載中です。
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リアム・ギャラガー ホワイ・ミー?ホワイ・ノット - 『rockin'on』2019年10月号『rockin'on』2019年10月号
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