前作『カリフォルニア』より約3年ぶりとなるニュー・アルバム。9作目でタイトルが『ナイン』というシンプルさ。そして、今作にまつわるマークの「2003年のアルバム『ブリンク 182』の精神性に立ち返りたかった」という発言。さらに先行配信されていた4曲が、その発言が頷ける極上のメロディック・パンク・サウンドだったこと(特に50秒という瞬足で終わる“ジェネレーション・ディヴァイド”は、どんな栄養ドリンクも敵わないくらいパワーが漲ってくる、完璧なスピード感&コード感&メロディ&コーラス・ワークを誇る)。それらから、原点回帰的な作品になるのかな、と思っていた。
ところが、トラックリストを見ると、先行配信の楽曲は前半に並んでいる。そして6曲目の“ジェネレーション~”で行ききるところまで行ききると、7曲目の“ラン・アウェイ”から世界がグッと広がるのだ。極上のメロディは揺るぎないのだが、ビートやサウンドのアプローチが挑戦的。確かに、振り返ってみれば、ポップ・パンクの覇者と言われた00年代前半から、彼らはクロスオーバーした表現を行っていた。その流れで「今」を鳴らすとこういうことになるのか!という発見が、今作にはある。マークの発言を読み直してみても「自分たちの土台に立ちつつ、ヘンテコな方向に突き進むっていうアルバム」とあって納得した。
また、トラヴィスは今日に至るまでのヒップホップの隆盛を支えてきたキーパーソンでもあるが、今作では、その技巧と先見の明を、あくまでブリンクに寄り添って落とし込んでいる印象。いちバンドマンとして楽曲を引っ張るプレイにグッとくる。メロディック・パンクにも、今の時代にも、広く扉を開き、深い場所まで連れていく。誰も置き去りにしない快作。 (高橋美穂)
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