デビュー40周年の最高傑作

ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズ『ゴースティーン』
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ALBUM
ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズ ゴースティーン

アーティストがある程度の年になると、親を亡くしたり自身の老いを実感して、“死”を題材に取り上げることは珍しくない。が、ニックの場合は不幸にも、4年前に15歳の息子を事故で失った。この17作目のスタジオ・アルバムでは、2枚組・約70分にわたり、タイトル通り精霊と化したティーンを悼んでいる。

ちなみに近年のニックとバッド・シーズと言えば、ミック・ハーヴェイの脱退を受けてダーティ・スリーのウォーレン・エリスが音作りの要となり、13年の『プッシュ・ザ・スカイ・アウェイ』で新しい時代に突入。以来ピアノがリードするダウンテンポでアトモスフェリックな世界に耽溺していた一同は、ここでも同じ路線を引き継いでいる。

よって、耳慣れないファルセットで声を震わせて動揺を露わにしているニックに寄り添うのは、アンビエントに近いミニマルなサウンドスケープ。彼の作品を特徴付けるキリスト教に根差したイメージが引き続きちりばめられ、教会音楽を想起させるコーラスを多用した本アルバムは、従来以上に宗教的な重みと厳粛な美を湛えている。そして、たとえようもない悲しみにかき乱された心の中でニックは、自分自身との、或いは息子との問答を繰り返す。そう、ここで彷徨っているのは息子の魂だけではない。父の魂もまた安らぎを求めて彷徨い、14分に及ぶフィナーレ“Hollywood”では、釈迦の教えにまで救いを求めているところが興味深い。やはりファルセットで歌うこの曲で引用しているのは、仏教の説話“キサーゴータミーと芥子の種”。子を失った母親が、死は生の一部だという真理を悟る物語だ。

結局ニックは最後まで自分に贖罪を与えない。でも同時に、こう言っているように思う。悲しみに終わりはないが、愛情にも終わりはない、と。(新谷洋子)



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ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズ ゴースティーン - 『rockin'on』2020年1月号『rockin'on』2020年1月号
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