天使と悪魔とニック・ケイヴ

ニック・ケイヴ『イディオット・プレイヤー:ニック・ケイヴ・アローン・アット・アレクサンドラ・パレス』
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ALBUM
ニック・ケイヴ イディオット・プレイヤー:ニック・ケイヴ・アローン・アット・アレクサンドラ・パレス

このニック・ケイヴの最新ライブ盤は、2020年6月にロンドンの由緒ある宮殿《アレクサンドラ・パレス》で行われ、世界中に生配信された無観客ソロ・コンサートの模様を完全収録したもの。もともとケイヴは19年に「ニック・ケイヴとの対話」と題したファンとのユニークなQ&A交流会をやっていて、その一環で披露していた「ピアノ1台での弾き語り演奏」が今回のソロ・ライブの礎となった。2020年は「ネコも杓子も無観客ライブ」な一年だったわけだけど、詩人ニック・ケイヴからすれば、歌詞の一語一語に全集中してもらえる今回のアローンな舞台設定は、むしろ大歓迎だったのかもしれない。

演奏曲は全22 曲。80年代からつい最近の楽曲まで、ケイヴのほぼほぼ全キャリアが網羅されている(唯一“Euthanasia”のみ新曲)。もっとも演奏曲の多いアルバムは97年発表の『ザ・ボートマンズ・コール』で、計6曲。今にして思えば、スピリチュアルな静寂さを纏った同作のミニマルなサウンドは、コロナ禍で急遽企画された本ライブの「壮大な予告編」だったとも言えるだろう。その『ザ・ボートマンズ~』のオープニング曲で、絶望的なまでに美しいラブ・ソングの“我が腕の中へ”(ケイヴの親友だったINXSのマイケル・ハッチェンスが自殺した直後の追悼式でも歌ったナンバーだ)がガランと静まりかえった宮殿を優しく包む。大トリは15年に不慮の事故により15歳で他界したケイヴの息子へ捧げたアルバム『ゴースティーン』(19年)収録の“ガレオン・シップ”。この上なくアローンな舞台で厳かに繰り広げられたソロ・ライブの最後を、ケイヴは祈りにも似た歌で締めくくる――「どうやら僕らはひとりぼっちではないようだ/空には大勢の“旅人たち”が舞っている」。(内瀬戸久司)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』2月号に掲載中です。
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ニック・ケイヴ イディオット・プレイヤー:ニック・ケイヴ・アローン・アット・アレクサンドラ・パレス - 『rockin'on』2021年2月号『rockin'on』2021年2月号
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