2020年も残りあとわずか。
新年へのカウントダウンが盛り上がるこのタイミングで、ロッキング・オンが選んだ2020年の「年間ベスト・アルバム」ランキングの10位〜1位までを、毎日1作品ずつ発表していきます。
年間10位に輝いた作品はこちら!
ご興味のある方は、ぜひ本誌もどうぞ。
【No.10】
『ヒーローズ・デス』
フォンテインズD.C.
ロックはオール・オア・ナッシング
デビュー作から1年ちょっとで到着したセカンドは、なんと英チャートで堂々初登場2位を達成。レーベル・メイトであるアイドルズのナンバー・ワンと並び、ロック勢が気を吐いているのを印象づける1枚だ。
瞬く間に若きホープと絶賛されたことでのしかかる精神的な重圧とツアー生活からくる混乱・消耗・衝突――俗にいう「2枚目症候群」――は相当に重かったようで、LAでの本作向け第1回セッションはボツになり、ファースト同様ダン・キャリー(ブラック・ミディ、スクイッド他)をプロデュースに迎えて仕切り直した。モダン・ダブリンの活写を通じて焦がれるような「ここから出てビッグになっちゃる」の野心をブチあげた1枚目に続き、アメリカの名門スタジオで録音というのはアイルランド人らしいサクセス・ストーリーであり、実現していたらそれはそれで美しかったはず。だが葛藤や実存的な苦悩といった自らのデコボコした内面を掘り下げたダウナー気味な楽曲の多い本作は、バンドとしての彼らがまだ発展途上段階にあることを伝える。ブレるボーカルや粗いギターといったミスをテクノロジーで修正し小綺麗にまとめるのをよしとせず、研磨されきってはいない現状を生々しくドキュメントした本作には「自分は誰にも属さない」「誰の命令にも従わない」等々の否定の意思が強く表明されている。ある意味無邪気だった前作の反動として、2枚を対で聴くべき経過報告だと思う。
しかし見事に成長も果たしている。ひとくちに「パンク」と括りきれない多様な面は1枚目でも聞こえていたとはいえ、ソニック・ユースを思わせる①のアンニュイな反復、ポスト・パンクとサイケデリアを結びつけた③④、ドゥーワップ・コーラスとモータリックなビートの融合が抜群な⑦、ニック・ケイヴ型のノワールなパンク⑧、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドへの愛情が炸裂するアンセム⑨、ロマンチシズムに満ちた⑩⑪等々、音楽的なボキャブラリーは拡大すると共に深化。アルバム・タイトルは半端に妥協して長らえるよりも1枚ごとにすべてを賭して全力で輝くことを選ぶこのバンドの所信表明だと思うし、ここでつかんだ成果と確信は彼らをソングライターとして更にステップ・アップさせるだろう。今もっとも目を離せないバンドのひとつとして、頭ひとつ抜けたブレイクスルー作。(坂本麻里子)
「年間ベスト・アルバム50」特集の記事は現在発売中の『ロッキング・オン』1月号に掲載中です。
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