ルイス・キャパルディ、この人の曲を本当によく耳にした一年だった。特にスコットランド出身のアーティストとして38年ぶりの全米1位を獲得した“サムワン・ユー・ラヴド”が、2019年に最も聴かれたUKアーティストの曲だったことは間違いない。本作は数々のセールス記録を打ち立てた彼のデビュー・アルバム。約半年遅れでやっと日本盤リリースとなった。
キャパルディの何が特別だったのか。iPhoneで録ったデモをきっかけにフックアップされると、BBCやVevoの新人リストにエントリー。サム・スミスらスターのサポートで演奏の腕を磨き、メジャーでのアルバム制作に際しては凄腕ブレーン&ゲストを招いて完璧なクオリティを担保する――彼はまさにそんなエド・シーラン以降の英国SSWの鉄板ルートを辿り、必然のブレイクを果たしたアーティストだ。際立ったオリジナリティで時代を切り開くタイプの音楽をやっている人ではないし、もっさりした子グマ的ルックスもカリスマ性とは程遠い。それでも現在のUKシーンには歌詞を一語一句噛み締めながら歌うバラッドの確固たる市場があるし、キャパルディのアメリカでの成功は、正統派シンガロング・チューンが逆に新鮮であるということを証明したかたちになった。ピアノとアコギを主体にしたソウル・ポップの輪郭は丁寧極まりない本作だが、愛や生きる意味を失い、足首まで泥に浸かってもがくような彼の歌声は驚くほど生々しくリアル。人間不信に陥ってから解脱した賢人のような嗄れ声も胸の奥の方に残って消えない。結局、ポップ・ソングの魅力とはそういう単純なものなのかもしれない。インタビューなどで垣間見せる愛嬌のあるキャラとのギャップも凄いので、年明けの初来日で正体を確かめたいところ。(粉川しの)
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