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n-bunaがファンであることを公言する直木賞作家・米澤穂信の推理小説『小市民シリーズ』を原作としたTVアニメ第2期のオープニングテーマとして書き下ろされた楽曲。「火星」を憧れや理想のメタファと位置づけ、彼にとっての「火星」であるという萩原朔太郎の詩『猫』の一節が引用されている。《火星へランデヴー》することを希求しながら《だったらいいのに》《だったらなぁ》と夢想するあたり、現状のままならなさが根底にあるわけだが、決して暗く重たい曲調ではなく、むしろ軽快な印象すら覚えるピアノジャズ調というバランスが絶妙。同様に明るくも暗くもない絶妙なラインで推移していくsuisの歌声に触れると、なぜか侘しさにも似た感覚を覚えてくるから不思議だ。作家性を十分に発揮したうえで、物語性よりも解釈を聴き手の感性に委ねる作風は、近作でいよいよ極まりつつある。MVでMARTIAN=火星人の文字列からARTを抜き出す一コマに相応しく、ポップスの領域に在りながらもはや芸術品の域まで達した一曲。(風間大洋)(『ROCKIN'ON JAPAN』2025年7月号より)
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