忘れ物を届けに来たバンド

フリート・フォクシーズ『フリート・フォクシーズ+サン・ジャイアントEP』
2009年04月08日発売
ALBUM
フリート・フォクシーズ フリート・フォクシーズ+サン・ジャイアントEP
昨年発表された本デビュー作で音楽ファンに波紋を巻き起こし、08年の静かな現象と化したシアトル発フリート・フォクシーズ。日本盤化が遂に決定して嬉しい限りだし、清らかな情趣に満ちたメロディ、スピリチュアルなハーモニー、豊饒な音作りが織り成すバロック・フォーク絵巻がスピーカーから立ち上がるたびいまだに胸が熱くなってしまうのは――我ながら不思議でもある。昨年あれだけ聴いたんだし、そろそろここから離れてもいい頃じゃないか、自分? しかしその持続力こそが本作を特別な1枚にしているのだろう。
リリース数も音楽のターンオーバーも速まる一方の現在、その流れに乗ろうとすると割を食うのはアルバム1作をじっくり聴く行為だと思う。サクサク聴いて、次の刺激へ。即時の満足が得られなければ、別の音にスキップすればいい。そうやって音楽が遍在しいつでもどこでもアクセス可能なのは素晴らしいことだけど、知らず知らずのうちにその価値をおろそかにすることにも繋がりかねない。でもみんな本当は、何百曲も入ったプレイリストよりも大事に聴き続けられる1枚、ずっと留まっていたいひとつの音空間に出会いたいんじゃないだろうか。それは古臭くロマンチックな考え方かもしれないが、筆者は本作を聴いてそのプレシャスな感覚を久しぶりに味わったし、彼らへの反響の大きさを見るにつけ、このバンドは色んな意味ですり減らされ、急かされている今の人々がうっかり置き去りにしていた何かを持ち帰ってくれたのかも……と感じずにいられない。(坂本麻里子)
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