電子のくちびるは、ディープな夢を見るか?

ディープ・リップス『ディープ・リップス』
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ALBUM
ディープ・リップス ディープ・リップス

1983年の結成だから、今年で37周年を迎えることになるザ・フレーミング・リップス。多くの同期/後輩バンドが解散へ追い込まれていくのを尻目に、ウェイン・コインと愉快な仲間たちは、ほとんど休むこともなく精力的に活動し続けている。

その無限のバイタリティを支える原動力のひとつは、彼らが大の「コラボ好き」である点だろう。過去の濃厚コラボ相手はというと、オノ・ヨーコネオン・インディアン、ヘンリー・ロリンズから、果てはマイリー・サイラス(!)まで……その全部が大成功だったとは言わない。でも、大事なのは、未知の世界への飽くなき好奇心を、いくつになっても持ち続けることなのだ。

本作は、そんな彼らが手がけた最新のコラボ・アルバム。新たな「合体」の相手に選ばれたのは、リンジー・トロイ(Vo/G)とジュリー・エドワーズ(Dr)が2011年に結成し、カリフォルニアを拠点に活動するガールズ・デュオ、その名もディープ・ヴァリー。普段はホワイト・ストライプスっぽいガレージ・ロックを得意としているふたり組なのだけど、今回のコラボでは、リップスが描く壮大なサイケデリック・ワールドの主要登場人物として、完全に景色の中に同化している│だからこそ、グループ名も「ディープ・リップス」にしたのだろう。

サウンドの基本方針は、オープニング曲“ホーム・スルー・ヘル”の頭の数分間にいきなり凝縮されている。バイクのエンジンの大爆音! スーパー・ヘヴィなギター・リフ! 謎のレーザー・ビーム音! そして、けだるさの中にも希望のロマンをにじませるリンジーの歌声……ディープ・リップスの音楽世界は、カラフルで、トリッピーで、黙示録SF的で、まるでマッドな化学者の実験工房である。その美しさは、4曲目の“ホープ・ヘル・ハイ”で早くも極限に達する。より正確には、美と破壊、と言うべきかもしれないけど。

一方、彼らの実験精神を別の角度から楽しめるのが“ザ・プッシャー”。実はこれ、映画『イージー・ライダー』でも使われていたステッペンウルフの68年のヒット曲のカバー。元の曲はゴリッゴリにブルージーな雰囲気だったけど、ここでは似ても似つかぬほど「オン・ザ・浮遊感」なスペース・ロックに生まれ変わっている――2020年のイージー・ライダーって、こういうことだ。

全10曲で、トータル時間は約39分。これまでのパターンから見て、おそらく今回一度きりのコラボ・アルバムなんだろうけど、これで終わるのはあまりにも惜しい。第2弾もいつかまた、ぜひ。 (内瀬戸久司)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』4月号に掲載中です。
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ディープ・リップス ディープ・リップス - 『rockin'on』2020年4月号『rockin'on』2020年4月号
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