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トム・ミッシュ『ビート・テープ 1』
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ALBUM
トム・ミッシュ ビート・テープ 1

グライム/ヒップホップからインディ・ロックまで多彩なアクトを育み活況を呈し、現UK音楽のホット・スポットのひとつとして目の離せない近年の南ロンドン。そのネオ・ソウル~ジャズ・シーンをレペゼンするキー・パーソンのひとりとしてめきめき頭角を現してきたのがミュージシャン&プロデューサーのトム・ミッシュだ。現在24歳の彼は、音楽学校に通っていた16歳の頃からSoundCloud他を通じて宅録音源を発表し始めた。コンポーザー/ギタリストとしての手腕を着実に磨きつつ、ジョーダン・ラカイ、ロイル・カーナーを始めとするシンガー、ビートメイカー、ラッパー、ミュージシャンら地元の才能と意欲的にフックアップすることでフュージョンなシナジーを高めてきた彼が、バンド編成でのライブ経験を重ねた上で、満を持してファースト『ジオグラフィー』を自らのレーベルからリリースしたのは2018年のこと。日本での公式デビュー作になった同アルバムのスムーズなフロウと心地よい歌の数々で、彼自身も敬愛するジョン・メイヤー=「歌えるギタリスト(しかもイケメン)」のイギリス最新版的なポジションを早くも固めている。

そんなトムのルーツ/素顔を知るのに最適な本作は、ネット上で2014年に発表した自主ミックステープに未発表曲を加えリマスターした内容になる。そのものずばりな「ディラ愛」のタイトルが泣ける⑧からも察していただけるように、スラム・ヴィレッジ~天才J・ディラに強くインスパイアされた繊細かつ緻密なインスト・ヒップホップと流麗なギター・プレイの絡みを軸にしたトラックがよどみなく続く。こだわって聴くと細かいのに、さらりとなじんでくれる。何年か前に「ヨット・ロック」なるタームがもてはやされたことがあったけど、注ぐ日差しとビーチもしくはリゾートのプールサイドが似合うこの音は、日々暗いニュースにさらされ神経がすり切れている人が求めている癒し/一時の逃避をもたらしてくれる。ビートが単調という点は否めないが、いわば「習作」な宅録スケッチ集なので大目に見て欲しい――っていうか、19歳でこれか!と耳を疑う成熟した作品だと思う。マイケル・キワヌーカの最新作での共演も「まさに」とうなる痛快な展開だったが、4月には南ロンドンの誇る現ニュー・ジャズ界のアイコン的な鬼才ドラマー/パーカッショニスト:ユセフ・デイズとのジョイント・アルバムが控えている(なんと名門ブルーノートよりリリース)。その予習も兼ねて、マルチに広がる若い才能の根っこに何があったのかを発見して欲しい。 (坂本麻里子)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』4月号に掲載中です。
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トム・ミッシュ ビート・テープ 1 - 『rockin'on』2020年4月号『rockin'on』2020年4月号
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