ザ・サイケデリック・ファーズ、なんと29年振りのニュー・アルバム。彼らの全盛期は80sで、まさに自分にとっては青春のバンドのひとつだ。ボーカルのリチャード・バトラーとベースのティム・バトラーを中心にロンドンから登場した彼らは、なんともユニークなニュー・ウェーブ・グループだった。ポスト・パンクの冠で語られがちだが、彼らの音からパンクの要素はそう強く感じない。ましてやバンド名にあるサイケデリックとも縁遠いサウンドである。それよりもデヴィッド・ボウイ~初期ロキシー・ミュージックの影響を強く受けたグラマラスでドラマティックなメロディ、そして塩味と表現したくなるリチャード・バトラーのハスキーな歌声が魅力のバンドだった。もし彼らの音を知らないなら、80s青春映画の巨匠にして、米オルタナ・シーンにも強い影響を与えたジョン・ヒューズ監督がこの曲をテーマに同名の傑作映画を撮った1981年の“プリティ・イン・ピンク”、トッド・ラングレンのプロデュースで、T・レックスを彷彿とさせるフロー&エディのコーラスをフィーチャーし、映画『君の名前で僕を呼んで』でも印象的に使われた1982年の“ラヴ・マイ・ウェイ”、そしてセンチメンタルが爆走する1984年の“ヘヴン”、この3曲だけでも、ぜひ聴いてみて欲しい。ゴスな要素も取り入れながら絶妙なメジャー感を併せ持った彼らのニュー・ウェーブは、ザ・キュアー並みの再評価を受けるに値するものなのだ。この新作でも、ファーズ解散後にバトラー兄弟とラヴ・スピット・ラヴを結成したリチャード・フォータス(ガンズ・アンド・ローゼズ)をプロデューサーに迎え、その持ち味を完璧に蘇らせている。変わらないままで新しい、稀有なバンドだ。 (片寄明人)
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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』9月号に掲載中です。
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