荒れ地を越えて戻ってきた預言者

ブライト・アイズ『ダウン・イン・ザ・ウィーズ、ホウェア・ザ・ワールド・ワンス・ワズ』
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ALBUM
ブライト・アイズ ダウン・イン・ザ・ウィーズ、ホウェア・ザ・ワールド・ワンス・ワズ

『ザ・ピープルズ・キー』(11)以来非公式な活動中止期間に入っていたブライト・アイズがほぼ10年ぶりの新作で帰ってくる! その間も中心人物であるコナー・オバーストはソロ活動を続けており、俊英フィービー・ブリジャーズとのユニット=BOCCのアルバムを昨年発表したばかりだが、盟友マイク・モギス&ネイト・ウォルコットと邂逅を果たしてくれたのはやはり嬉しい。ネイトがRHCPの『ザ・ゲッタウェイ』ツアーに参加した縁だろう、かのフリー、そしてジョン・セオドア(マーズ・ヴォルタ他)がリズム・セクションで一部貢献していることも話題を呼んでいる。

3月以来先行公開されてきたシングル4曲の多彩さからもうかがえるように、オーケストラ&コーラス隊、泣きのエレキ・ソロ、パンチの効いたドラミング、バグパイプやホーン、ループ/コラージュを始めとするエレクトリックな質感がシームレスに混ざり合ったサウンドは実に美しい。『アイム・ワイド~』/『デジタル・アッシュ~』(05)以降彼らはフォークやカントリーといったいわゆる「アメリカーナ」を基盤としつつその境界線を多方向に押し広げてきわけだが、これまででもっともコラボ色の強いという本作は3者の個性・主張のバランスを見事にジャッジしたひとつの集大成と言えるだろう。

バーのドアを開けるとお客の雑談が耳に流れ込んでくる……という設定の幕開け①に含まれるのは「もっとも鮮明な悪夢です」のアナウンスだ。過去数年彼の潜ってきたパーソナルな悲しみや喪失の苦痛(とりわけ兄の不慮の死は大きい)とパブリック=トランプで拍車のかかった社会/政治不安や実存の苦悩が絡まる多面的な歌詞はなるほど複雑で一種の熱にうなされた夢のようで、ディストピアンなイメージや終末観、避けられない老いや死を映し出す。もともと悲観的な人(というか、現実から目をそらさない詩人)とはいえ、ネブラスカとBEというルーツに心身共に戻ることでそのダメージを癒すほかなかったのかもしれない。しかし「かつて世界のあった荒れ地にて」というタイトルの本作は、回顧や後悔、追悼を経て究極的には希望と再生に目を向けている。②で歌われる「人生は不完全/だから自分は踊り歌い続ける」、④の「臆病者だった自分/でももうたくさん/闘う準備はできている」等、過去という名の雑草で覆われた草むらを焼き払った彼はそこから始まる何かに懸けようとしている。05年に発表したプロテスト曲“When The President Talks To God”は今も有効だ。この預言者の帰還の波紋が広く強く及ぶことを祈らずにいられない。 (坂本麻里子)



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ブライト・アイズ ダウン・イン・ザ・ウィーズ、ホウェア・ザ・ワールド・ワンス・ワズ - 『rockin'on』2020年9月号『rockin'on』2020年9月号
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