「メロディと人」の極み

トラヴィス『10ソングス』
発売中
ALBUM
トラヴィス 10ソングス

約4年ぶり、通算9作目となるアルバム。とてもシンプルなタイトルだが、フランの「個人的にはさ、10人が書いた1曲よりも、1人が書いた10曲だなって思うんだ」というコメントを聞くとズシンとくる。ヒット曲1曲のクレジットにたくさんの名が連なることも多い昨今、トラヴィスは実直に抗っているのだ。しかし、彼のように抗うことができる才能を持つソングライターは、そう多くないと思う。今作も、まるでグッド・メロディが湧き出る泉のよう。これを約25年も続けているって、(山や谷はあったが)とんでもないことだ。しかも、素朴な弾き語りでも、壮大なストリングスが彩っても、スザンナ・ホフス(バングルス)をはじめとしたゲストが加わっても、際立つのはひたすらグッド・メロディ。様々なアレンジでエンターテイナーぶりは発揮しつつ、結果的には、どんな楽曲でも土台が強固でなくてはいけないことを、改めて知らしめるようなアルバムになっている。

そんな基本中の基本で勝負しながらも、作品にしっかり時代性が映し出されているのは、ポップ・スターならではかもしれない。イギリスがロックダウンの最中、フランが自ら描いたアニメーションで制作された“ア・ゴースト”のMVで、ラストに現れる実写――フランとゴーストが演奏している場面(撮影したのは彼の14歳の息子)は、2020年を象徴しているようだ。

この楽曲も含めて、レコーディングは昨年から今年初頭にかけて行われたが、奇しくも「今」響く、体温が伝わるぬくもりが詰まっている。「シンギン!」という呼びかけも、彼らが生み出してきた眩しいライブ空間が更新されていってほしいと願わずにはいられないほど力強い。不要不急と位置付けられた音楽の尊さを、彼らはやっぱり実直な方法で広めてくれる。 (高橋美穂)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』11月号に掲載中です。
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トラヴィス 10ソングス - 『rockin'on』2020年11月号『rockin'on』2020年11月号
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