贅沢な音色と時間に満ちた初ソロ作

マット・バーニンガー『SERPENTINE PRISON』
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ALBUM
マット・バーニンガー SERPENTINE PRISON

インディ・シーン最高峰のバンドであり、メンバー各自の旺盛な活動でも知られるザ・ナショナル。直近ではアーロン・デスナーとテイラー・スウィフトとのコラボレーションが記憶に新しいが、先日もドラマーのブライアンがロイヤル・グリーン名義でデビューを飾ったばかり。そうしたなか、待望のソロ・アルバムを完成させたのがボーカリストのマット・バーニンガーである。過去には別ユニットのエル・ヴァイ、また昨年にはフィービー・ブリジャーズとのデュエット曲も話題を集めたが、ソロ名義では今作が初になる。

ザ・ナショナルのベース担当スコットを始め、ベイルートウォークメンのメンバー、さらにアンドリュー・バードらが録音に参加。プロデューサーにはR&B/ソウル界の重鎮ブッカー・T・ジョーンズを迎えた今作は、オーガニックでアコースティックな音色が際立った印象を残す。随所を彩る管弦楽器はザ・ナショナル譲りだが、エレクトロニックなアレンジは控えめで、柔らかなアンビエンスがサウンド全体を包み込んでいる。なかでも、ピアノが主旋律を奏でる“Take Me Out of Town”や“All for Nothing”といったバラードは白眉に挙げたい。そして、マットの艶気と哀愁を含んだボーカルはいわずもがな、コーラスを添えるゲイル・アン・ドロシーのソウルフルな歌声が素晴らしい。

バーニンガーいわく、子供の頃に聴いたウィリー・ネルソンの『スターダスト〜』の自分のバージョンを作ることが始まりだった今作。そのレコードが内包していた優しさや楽観性は時をへて彼を促し、「今」を映し出す複雑な時代模様や心象風景と混じり合うことで豊かな音楽を実らせている。マット・バーニンガーという1人の音楽家の新たな船出を告げる1枚だ。(天井潤之介)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』11月号に掲載中です。
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マット・バーニンガー SERPENTINE PRISON - 『rockin'on』2020年11月号『rockin'on』2020年11月号
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