2017年に25年ぶりの新作をリリースした後に行なわれた「史上最高のコンサート」とも形容されるツアーが作品化。実際、今後これに匹敵する規模のロック・コンサートはそうそうできるものではないな、と素直に思う。
とにかく印象的なのは、御大がこれまでになく「オーディエンスの方を向いている」姿だ。かつて観客との間に断絶を感じ、そこに巨大な壁を築き上げた男とは信じがたいほどで、“アナザー・ブリック〜”の《しょせん我々は壁の中のレンガにすぎない》というフレーズにも虚無的な響きはもはやなく、世界中の子供たちが「抵抗」の拳を天高く突き上げる演出になっている。今回の壁はステージ前に築き上げられるのではなく、フロアを中央から分断する形で登場し、豚どもをやっつけ、それをみんなで乗り越えていこう!という超前向きなメッセージ。逆に言うと、ロジャーがここまでやらねばならないほど状況はヒドくなっているということなのか……。
『狂気』を軸に、フロイドの代表曲が総動員されたセットリストも、『ザ・ウォール』再現など過去にやってきたものとは違う新しいアングルを感じさせる。個人的には、このところ再評価されてきた『アニマルズ』のナンバーが、いい感じでフィーチャーされているのも嬉しい。そこから“マネー”を経て突入するクライマックスは本当に感動的で、あらためて『狂気』終盤の曲が持つ力強さに唸らされた。
これこそピンク・フロイドの集大成と結論づけたくなる自分はウォーターズ派だが、ギルモア好きな人の気持ちもわかるし、バランスよく両方を見るのがいいのだろう。それについても厄介というよりは「2倍楽しめるのだ」と思えるようになってきた。あ、最近はニック・メイスンのソーサーフルなんとかってのもあるから3倍か! (鈴木喜之)
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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』11月号に掲載中です。
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