世界と感情を全部ぶち込んだ快盤

マディーナ・レイク『アティックス・トゥ・エデン』
2009年04月15日発売
ALBUM
たとえば、どキャッチーなR&B風ボーカリゼーションをタイトな爆音でロックのカナタへ押し流す“レッツ・ゲット・アウタ・ヒア”。たとえば、日常と薄皮一枚の向こう側の背徳の世界を鮮やかに暴くような“レジェンズ”。たとえば、悲鳴のように響くギター・リフが「今、ここ」の危機感を煽る“ネヴァー・ウォーク・アローン”……楽曲自体はどっからどう聴いてもあのマディーナ・レイクの、火傷必至のエモーショナルでパンクなものだ。が、それを構築しているサウンドの、あらゆる感情を量子化したようなハイブリッドな響きは明らかにミューズやインダストリアル・ヘヴィ・ロックのそれだ。そこにはもちろん、パラモアからキルスウィッチ・エンゲイジまで手掛けるプロデューサー=デイヴィッド・ベンデスによるマディーナ・レイクの楽曲の徹底的な(マシューが「ロックンロール・ブート・キャンプ」と呼んだほどの)解体&再構築作業も大きな要因として存在するものの、それはあくまで今作のスケール感の土台にすぎない。というか、彼らが吐き出し続けている圧倒的なボリュームの感情と、前作『フロム・ゼム、スルー・アス、トゥ・ユー』当時の「物質主義や拝金主義に毒され始めた50年代アメリカど真ん中の架空の街=『マディーナ・レイク』を舞台にした、アメリカと世界へのリアルな批評の物語」という設定からよりディープかつインナーに潜行したドラマとを1つの座標に収めるために、絶対必要不可欠な試練に直面し、結果的に新次元の音を手に入れた……ということだ。その真価を、まずはパンクスプリング09で見極めたい。(高橋智樹)