18年後、再びのラグナロク

シガー・ロス『オーディンズ・レイヴン・マジック』
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ALBUM
シガー・ロス オーディンズ・レイヴン・マジック

2002年、シガー・ロスはアイスランド交響楽団、パリ音楽院管弦楽団と共にロンドンのバービカン・センターで公演を行った。本作はそのコンサート音源を収録したもので、こうして実に18年ぶりに『オーディンズ・レイヴン・マジック』と名付けられた同プロジェクトの全貌が私たちにも届けられることになった。アイスランドの作曲家ヒルマル・オウルン・ヒルマルソン、同国を代表する吟唱家のステインドール・アンダーセンが参加した本作は、14、15世紀頃に書かれたアイスランドの著名な詩『オーディンの鴉の歌』をテーマにしたコンセプト・アルバムだ。

大規模なオーケストラ・アルバムでもある本作だが、グレゴリア聖歌が厳かに響く中世の教会を想起させる旋律や、キリスト誕生以前の神話世界を表現したシガー・ロスらしいアンビエント、そしてマリンバやティンパニのポリリズミックなプレイがむしろ現代音楽とのリンクを感じさせるパートなど、オーケストラ・サウンドと一纏めに形容できない多次元的一作に仕上がっている。そこに妖しげなアラビア音階や、はたまたファドを思わせる哀愁のメロディまで重なり、時間と場所を超えて広がっていく本作の世界を前にしたら、18年の時差なんて誤差みたいなものだろう。

前作『クウェイカー』から7年ぶりの新作がオリジナル・アルバムではなかったのは少し残念でもあるが、本作はこの2020年にこそ出す意味があったのではないか。北欧神話の神々が滅亡の日(ラグナロク)を前に抗うという古の詩をテーマにしたこのアルバムは、パンデミックに始まりパンデミックに終わった2020年に奇妙なほど馴染むからだ。ついにヨンシーの歌声が聴けるラストの“Dagrenning”で大地が裂けるような恐慌のスペクタクルが訪れた時、改めてそう思った。(粉川しの)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』1月号に掲載中です。
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シガー・ロス オーディンズ・レイヴン・マジック - 『rockin'on』2021年1月号『rockin'on』2021年1月号
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