かつての自分と自分に共感したファンのための、斬新な飛躍

ヤングブラッド『ウィアード!』
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ALBUM
ヤングブラッド ウィアード!

衝撃の1stアルバムから約2年半ぶりのリリースとなる新作だが、これもまた衝撃の内容である。というのも、前作とは遥か遠い地平にまでヤングブラッドことドミニク・ハリソンは来てしまっているからで、歌詞的内容もサウンドも根本的にまったく違うベクトルを志向している。しかし、それでいて、立地点はまったく同じなのである。わずか2年半の間に自身の作風と生い立ちに関して、これほどまでの視野の広さと懐の深さを獲得すること自体が驚異的だ。なかには、この変化を変わり身の早さと指摘する向きもあるかもしれないが、そうではない。おそらくヤングブラッドは、1stの時点までに自身の性格について徹底的に考え抜いていたのだ。だから、前作で、やるべきことはほぼやり尽くしてしまっていて、その結果、今回の『ウィアード!』では早々と次のステージへと進むことができたのだ。

そもそも『21st Century Liability』がなぜあれほどまでに説得力を持つ内容の作品になったのかといえば、それはヤングブラッドの剥き出しの被害者意識をそっくりそのまま、表現としても感情としても形にすることに成功していたからで、その状態で発せられる「死にたい」「死ぬ」「殺す」などといったフレーズがあまりにも強烈なリアリティをたたえていたからだ。そして、その動機としてはたとえば、発達障害を患っているとしてリタリンを投与され、知覚麻痺状態に陥った記憶などが綴られていて─つまり、自分が社会からまともに受け入れられない心情が鮮やかに描かれており、こうした描写に説得力があったからこそ、その結果としての「もう死にたい」というフレーズもよく伝わるものになっていたのだ。ずっとフレーズとして懐に温めていたという“21st Century Liability”のタイトル(21世紀の不良債権)も、まさに自分はそんな存在でしかないという自身の苛立ちをよく表すものであったはずだ。

しかし、前作には若干、もうこのモードから脱していた楽曲もある。そのひとつが“California”だ。というのも、他の曲がそれまでずっと自分が拒絶されてきたことを綴ってきたのに対して、この曲では自分をアーティストとして認め、レコード契約してくれる人たちがカリフォルニアにはいたのだということを綴ったものだったからだ。そんなふうに自分が受け入れられた場所から、さまざまなテーマをあらためて扱ってみたのが今回の『ウィアード!』なのだ。「ウィアード」とは「変な人」という意味だが、それはかつての自分であったり、適応障害に悩んでいる人であったり、性同一性障害に悩んでいる人など、さまざまな形で社会に適応できずに絶望感を感じている人たちのことで、その人たち全員に向けたメッセージとなっているのがこのアルバムだ。そして、それは1stでいろいろぶちまけた自分だって、こうやってアーティストとして居場所を見つけることができたのだから、みんなもなんとかなるはずだ、というメッセージなのだ。

今回の楽曲は、全体的にそういうかつての自分に向けてきっと大丈夫だからと励ますような、前向きなメッセージに貫かれた内容になっているため、サウンドもギター・ロックが全開で、アンセム感溢れるボーカルが押しまくる展開となっているところが圧倒的だ。個人的には、前作の、各楽曲の細かいモチーフをラップとしてまくしたてるところが痛快だったし、モダン・ロックとトラップ・ビートが異様な形で融合したサウンドもまたどこかいびつなダークさがあって、そこがとても刺激的だったので、寂しさがないわけではない。しかし、すでにヤングブラッドの心境が違うところに進んでしまっているのだったら、そこにこだわっていたら不自然だし、そもそも、かつての自分を支持してくれた聴き手のみんなを高揚させたいというこのアルバムの目的にもかなわなくなる。そうした意味で、この大胆なサウンドの変化は自分の歌詞的世界をよく映し出すためのものでもあるし、なにやらボーカルがリアム・ギャラガー的になっているのも、よりアンセム的に聴き手を高揚させる狙いによるものなのだ。

そうした意味で、“マーズ”などは前作から引き継いだ作風と今現在のアプローチを最もいい形でまとめたロック・ナンバーで、性同一性障害で家庭でも学校でも孤立感に苛まれている女子(男子)に、自分と同様、やはりカリフォルニアに行きたいと思わせる内容になっているのだ。さらにこの少女(少年)がコーラスで現実逃避として火星の生物についてもの思いに耽るところなどはもちろんデヴィッド・ボウイの“火星の生活”へのオマージュだ。前作とはまったく違うモードと音の好みが炸裂する、見事な飛躍の作品。(高見展)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』1月号に掲載中です。
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ヤングブラッド ウィアード! - 『rockin'on』2021年1月号『rockin'on』2021年1月号
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