デビューから解散までの約5年でスタジオ・アルバムを5枚残し、約40年を経た今もなおユニークなサウンドとカリスマ性と世界観が新たな聴き手に発見され続けているジャパン。波乱と激動に満ちた短い歴史の中で、ハンザ・レーベルから発表された初期はヴァージン時代のアイコニックな傑作群に較べ評価がわかれがちではある。しかし80年1月発表(日本では79年末)の本3rdは、後期ジャパンの布石を打った音楽的な転換点にして本国での待望のヒットと注目をもたらした重要作。①オリジナル盤の最新リマスター(CD&アナログ)、②アルバム未収録シングル/別ミックス他のレア曲集、③2度目の来日ツアー(80年3月武道館公演)を含むライブ音源に盛りだくさんなブックレットから成るDX仕様再発はそれにふさわしいし、コアなファン必携なのはもちろん、最初の転機を迎えていたジャパンのラディカルな進化ぶりを若い耳が俯瞰したどり直すのに最適な内容だ。
転機のひとつはアルバムの前に出した単発シングル“ライフ・イン・トウキョウ”で、この曲でジョルジオ・モロダー(77年に英1位を記録したエレクトロ・ディスコの古典“アイ・フィール・ラヴ”をプロデュース)とのコラボを果たした彼らは続く本作でデヴィッド・シルヴィアンの独特な歌唱を確立すると共にもともとバンドの中にあったファンクネスを発展させシンセの可能性を掘り下げていった。その最初の成果であるタイトル曲“クワイエット・ライフ”は80年代UKを席巻するニュー・ロマンティックスの先駆けであり、デュラン・デュランをはじめ後続に広く模倣されたばかりかジャパンの源流にあるグラム・ロックの象徴=ロキシー・ミュージックの“セイム・オールド・シーン”を先見してもいて痛快だ。英パンク勢の多くがグラム好きだったのは周知の話だが、にもかかわらずグラムの女性っぽい表層に対する反動として革ジャン+破れたジーンズに象徴されるマッチョな潮流も台頭した。その残滓はポスト・パンク期にも漂っていたくらい革命後の状況は混沌としていたけれど、カオスをいち早く抜け出す勇気を示し、新時代の音感覚を定義していったアクトのひとつはデビュー時に「女々しい」と叩かれた異端児のジャパンだったことになる。この後のアルバム2枚を通じプログレ、アンビエント、ワールド・ミュージックと変容は多岐に広がったし、シーンの分岐点/開拓者/触媒な存在としてジャパンは実に興味深い。そんな彼らのポリゴン性向の最初の顕現を鮮明に捉えた意味で、本作は啓示と刺激に満ちている。(坂本麻里子)
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