誰もキミのようには歌えない

クリス・コーネル『ノー・ワン・シングス・ライク・ユー・エニモア』
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ALBUM
クリス・コーネル ノー・ワン・シングス・ライク・ユー・エニモア

泣かせるなぁー。グランジ・ムーブメントの扉を最初に開けたグループのひとつ、サウンドガーデンのボーカリストにして17年に自死してしまったクリス・コーネルが、その前年にレッチリエアロスミスとの仕事でお馴染みのブレンダン・オブライエンとふたりで創り上げた全10曲のカバー・アルバムだ。

選曲、曲順も生前クリスが決めていたというが、そのすべてが完璧だ。冒頭はジャニス・ジョプリンの未完のラスト・アルバム『パール』に収録されたバージョンが有名な67年のソウル・ヒット“愛は生きているうちに(Get It While You Can)”で、熱をむき出しにした歌声がジャニスの素晴らしかった歌唱と重なっていく。グランジ/オルタナ世代とジャニスあたりは一番接点が感じられなかっただけに、リスペクトの思いがむき出しとなったこれをオープナーにしてくれたのが嬉しい。

続いてニルソンにしては珍しいハード・タイプのナンバー“ジャンプ・イントゥ・ザ・ファイアー”、テキサスのエレクトロ・ユニット、ゴーストランド・オブザーヴァトリーの“サッド・サッド・シティ”と続き、次のガンズ・アンド・ローゼズの“ペイシェンス”も良いが、圧倒的に耳を捉えるのはプリンス作のシネイド・オコナー“愛の哀しみ(Nothing Compares 2 U)”で、アコースティック・ギターをバックにじっくりと歌い込まれる。次の、アルバム中もっともポピュラーであろうジョン・レノンの“ウォッチング・ザ・ホイールズ”、さらにゴスペル・シンガー、カール・ホールの“ユー・ドント・ノウ・ナッシング・アバウト・ラヴ”をオリジナル以上の熱量で歌いきる中盤が聴き応えがある。単にお気に入りを取り上げるだけではなく、その曲とアーティストたちが築き上げたドラマごと昇華し、自分のフィールドで展開する構成が良い。

オリジナルとはがらりと違ったへヴィ・バージョンに仕立て上げられたエレクトリック・ライト・オーケストラの“ショウダウン”は、ELOファンにこそ聴いてもらいたいし、テリー・リードのナンバーをロマンチックなカントリー・ロック風に聴かせるところもこの人らしい。そして最後は、1曲目と同じくジャニスが“トライ”を取り上げたことで知られる60年代の女性ソウル・シンガー、ロレイン・エリスンの“ステイ・ウィズ・ミー”のドラマチックなバージョンで、深い余韻に包み込まれていく。

どれも味わい深いトラックで、改めてクリスの不在を嘆きたくもなるのだが、それでもこれは永遠に残るのだから救われはする。(大鷹俊一)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』4月号に掲載中です。
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クリス・コーネル ノー・ワン・シングス・ライク・ユー・エニモア - 『rockin'on』2021年4月号『rockin'on』2021年4月号
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