キッスのポール・スタンレーによるソウルに挑むプロジェクト、ソウル・ステーション(名TV番組『ソウル・トレイン』の捩りだろう)初のフル・アルバム。彼がロックに夢中になる以前に大きな影響を受けていたモータウンなどのソウルのエッセンスを現代へとつなぐ架け橋にという思いが込められたもので、5曲のオリジナル曲を挟み“フィラデルフィアより愛をこめて”(スピナーズ)、“ウー・ベイビー・ベイビー”(スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズ)、“レッツ・ステイ・トゥゲザー”(アル・グリーン)、“ユー・アー・エヴリシング”(スタイリスティックス)といった多くの人の耳奥に焼き付いている名曲中の名曲をカバーしている。
こんな大名曲と並ぶのだから、正直言ってオリジナルの楽曲的な厳しい評価は仕方ないところだが、という大前提に立って接すると、過去を単にトレースするだけじゃなく、現在のモダンなサウンドと違和感なく融合させようというプロジェクトの狙いは成功している。“ウー・ベイビー・ベイビー”を始め美しいファルセットなどで丁寧に歌い込んでいくポールの姿勢は、キッスの時とはまったく違うわけだが、ジーン・シモンズと共にキッスの屋台骨を長く支えてきた男の音楽的なもうひとつの奥行きを見せられた気がする。
三世代が楽しめるバンドとして現在のキッスは成立しているわけだが、その基盤に向けてもアピール力はあるし、過去からの流れが感じられにくい現状なだけに現在の米英ソウル・ミュージック・ファンにも接して欲しい。
ちなみにカバーもので自分が一番気に入ったのは“ベイビー・アイ・ニード・ユア・ラヴィング”(フォー・トップス)で、やっぱりコレにやられたくちかと親しみもわく。(大鷹俊一)
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