これは最高。約4年ぶりの3作目だが、間違いなく彼らの最高傑作だろう。ロックらしいロックの醍醐味を、それもきちんと2020年代的な文脈でとことん味わわせてくれるという意味で、ここ数年リリースされたロック・アルバムでも最上位にランクされる作品だと思う。制作は2019年2月から開始され、ツアーやフェス出演による中断を経て同年暮れに再開したものの、コロナでレコーディングは再度中断。その間にさらに2曲の新曲が追加され、結局2020年8月に完成。クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのジョシュ・オムが1曲、ポール・エプワースが2曲、プロデュースを手がけている。
もちろん、マイク・カー(ボーカル、ベース)、ベン・サッチャー(ドラムス)というラインナップに変化はなく、ベース、ドラムス、そしていくばくかのキーボードという使用楽器にも変化はないし、リフ主体のオールドスクールなクラシック・ロックとホワイト・ストライプス的なオルタナ・ロックの融合を現代風にデフォルメしたようなサウンドという基本線は変わらない。
大きく変わったのはリズムだ。ダンサブルでファンキーなビートが導入され、アルバム全体にダイナミックで躍動感のあるグルーヴが貫かれ、非常に気持ちがいい。言ってみればヒップホップ以降のビート感覚を通過したレッド・ツェッペリン『フィジカル・グラフィティ』という感じで、ジョシュ・オムのプロデュースした⑧“ボイラーメイカー”は、変則的なリフとジョン・ボーナム的な重いドラムが決して重苦しくならず、軽やかな風通しの良さを感じさせる。
ドラムの鳴りをうまく活かした録音で、エレクトロニックなエフェクトの使い方も効果的だ。彼らは初めから進むべき方向性を見定めて制作をスタートしたそうで、ダフト・パンクやジャスティスといったダンス・アクトからの影響を言明している。テクノやヒップホップ、R&Bといった現代ダンス・ミュージックの意匠を加えることで、50年も前の様式であるロックが非常に新鮮に聴こえるのだ。
「これまで僕らが築いていたものを破壊する必要がないことはわかっていた。当初はちょっとしたリ・インベンション(再発明)ぐらいを思い描いていたんだけど、きっと新しい感じに聴こえると思うよ」とマイクが語る通りの内容で、これまでの彼らのサウンドをきちんと踏襲しながらも、リズム=グルーヴに着目することで、ベールを2、3枚取り去って曇りを拭い去ったようなクリアで見晴らしのいい、躍動する現代的な音像になった。(小野島大)
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