タイトル通り、故エイミー・ワインハウスが英BBCに残したライブ(オーディエンス/スタジオ)音源を集めたもの。
2012年にも同タイトルでBBC音源集は出ているが、曲数を大幅に増やしての決定版だ。3枚組仕様で、1枚目はジュールズ・ホランドが選んだ音源。おそらく彼が司会するジュールズ・ホランド・ショウでのパフォーマンスだろう。ポール・ウェラーとデュエットしたマーヴィン・ゲイの“悲しいうわさ”など貴重な音源も。2枚目は2004年から2009年までのBBC音源で、旧版『At The BBC』と同じ。3枚目は2007年のポーチェスター・ホールでのライブを収めている。
痛感するのは、エイミーの声の強さ、ボーカリストとしてのスケールの大きさ。コンボ形式のバックであれ、フル・オーケストラのバックであれ、どんな状況だろうと観客を圧倒し会場全体を巻き込み、ぐいぐいと引っ張っていく。観客のいないライブでも、歌による夢の世界を鮮やかに作り上げていく。
歌唱力はもちろん高いが、それ以上に表現者としてのイマジネーションの豊かさと構築力の高さを感じる。とりわけゾーンに入った凄みを見せつけるのは3枚目のポーチェスター・ホールでのライブで、これは既に映像で出ているもののサウンドのみのバージョンだが、その集中力の高さとカリスマ性が際立つ。
映画『AMY エイミー』を観た時も思ったが、オーディエンスを酔わせ一時の楽しみを提供するエンタテイナーとしての稀有な才能も、周りの人間すべてが自分の生活や人生を犠牲にしても守っていかなければ壊れてしまうほど繊細で、危うい綱渡りだった。人格円満で堅実な天才なんていない。でもそんな天才の血みどろの芸で、我々の世界は豊かに彩られている。(小野島大)
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